はざま)” の例文
旧字:
川が崖に沿うて走るようになり、白い巌壁からなるはざまの鉄道橋を渡ったとき、ドナウが依然としてそう細くなってはいなかった。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
深い谿たにや、遠いはざまが、山国らしい木立の隙間すきまや、風にふるえているこずえの上から望み見られた。客車のなかは一様に闃寂ひっそりしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
食堂で朝食を済ませてから、また甲板へ出て見ると、もう雨はあがっていたが、まだ、煙のような雲が山々のはざまを去来している。
午前三時、四丁目の交叉点に立って新橋の方を眺めると、街燈の光も淡くほのかに、銀座のはざまは深沈たる闇の中に沈み、闃然げきぜんとものの音もない。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
山下の村人に山の名を聞くと、あれが蝶ヶ岳で、三、四月のころ雪が山のはざまに、白蝶のはねを延しているように消え残るので、そう言いますという。
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
耳を澄ますとどこからともなく読経の声が聞こえて来た。岩のはざまや木の下や茨や藪の中などで、苦行している人々の熱心籠もった唱名しょうみょうででもあろう。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主人若し打たれては残卒全からず、何十里の敵地、其処そこの川、何処のはざまで待設けられては人種ひとだねも尽きるであろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
見上げるばかりの切り立った岩壁は両方から次第に近づき、谿がせばまって、行手ははざまになっている。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
赤城山の裾は西へ、榛名山の裾は東へ、そのせばまったはざまの間に、子持山と小野子山が聳えている。
楢の若葉 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
茶褐色ちゃかっしょくのうら枯れた大木の落葉がちょうど小鳥のかけるように高い峰と峰とのはざまを舞い上がってゆく。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
こうして、しっかりしたやや狭いはざまを平均された水勢で流れて来た気持が、今ふっと一つの巖をめぐって広いところへ出たはずみに、くるりくるりと渦をまいて居ります。
また、大尉とは義兄弟の契りを結んでゐるダニーロ・ブルリバーシュも、ドニェープルの対岸の、山と山とのはざまにある領地から若い妻のカテリーナと当歳の息子を伴れてやつて来た。
桟橋に立ってるとき北の岡のはざまから霧が吹き出してきたので今に島を包むかと思って眺めてたがゆるやかに湖をわたり東の山にそうていってしまった。秋になって霧が急にすくなくなった。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
勃凸と私と而してもう一人の仲間なるIは黙つたまゝ高い石造の建築物のはざまを歩いた。二人は私の行く方へと従つて来た。日比谷の停留場に来て、私は鳥料理の大きな店へと押し上つた。
(新字旧仮名) / 有島武郎(著)
まっ黒なはざまにそそり立つ杉の大木のてっぺんが、ちょうど脚下にとどいている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
水垂みづたれの岩のはざまを垂る水の蕭々せう/\として真昼なりけり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
せまりて暗きはざまより
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
谷のはざま
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ごろた石の川洲に中腰になって斜面なぞえの嶺のほうをうかがうと、歌ごえは真向いの段々畑からばかりではなく、額を合せるように八方から迫ったあちらの嶺からもこちらのはざまからも聞えてくる。
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
黒烟くろけぶりふかはざま
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)