山嶽さんがく)” の例文
新字:山岳
夕立雲ゆふだちぐも立籠たちこめたのでもなさゝうで、山嶽さんがくおもむきは墨染すみぞめ法衣ころもかさねて、かたむらさき袈裟けさした、大聖僧だいせいそうたいがないでもない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
信仰のうちに併呑へいどんされた土地、鼓動してる山嶽さんがく、歓喜してる空、人間の獅子しし、それらにたいする賛歌を彼は飲み込んだ。
例へば山嶽さんがく河海かかい郊原こうげん田野でんや、一も順序ある者なし。故にこれに命名せんと欲せば人間の見聞し得る所の処一々に命名せざるべからず。地名これなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さなが山嶽さんがくを望むが如く唯茫然ぼうぜんとしてこれを仰ぎ見るの傾きあるに反し、一度ひとたびそのを転じて、個性に乏しく単調にして疲労せる江戸の文学美術に対すれば
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
恵那山えなさんを最高の峰とする幾つかの山嶽さんがく屏風びょうぶを立て回したように、その高い街道の位置から東の方に望まれる。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
衣水子は山嶽さんがく志でも読んで来たものと見え、得意になってしきりに八溝山の講釈をやる。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
あたかも鷲の腹からうまれたやうに、少年は血を浴びて出たが、四方、山また山ばかり、山嶽さんがく重畳ちょうじょうとして更に東西をべんじない。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
天気が天気なら、初めて接するそれらの山嶽さんがくから、一行のものは激しい好奇心をいやし得たかもしれない。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかしその矛盾は表面のみだった。彼は常に変わりながらも、常に同じだった。彼のあらゆる作品は、同一の目的に達する種々の道筋だった。彼の魂は一つの山嶽さんがくであった。
製作者はまたその面に男女両性を与え、山嶽さんがく的な風貌ふうぼうをも付け添えてある。たとえば、すぎの葉の長くたれ下がったようなあらい髪、延び放題に延びた草のようなひげ
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
にしき面影おもかげめた風情ふぜいは、山嶽さんがく色香いろかおもひくだいて、こひ棧橋かけはしちた蒼空あをぞらくも餘波なごりのやうである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
美濃境にある恵那山えなさんを最高の峰として御坂越みさかごえの方に続く幾つかの山嶽さんがくは、この新築した家の南側の廊下から望まれる。半蔵が子供の時分から好きなのも、この山々だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
実に威あってたけからずと言うべき山の容儀かたちであるとした飛騨の翁の形容も決してほめ過ぎではなかった。あの位山を見た目で恵那山を見ると、ここにはまた別の山嶽さんがくの趣がある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いたるところに山嶽さんがくは重なり合い、河川はあふれやすい木曾のような土地に住むものは、ことにその心が深い。当時における旅行の困難を最もよく知るものは、そういう彼ら自身なのだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)