尻端折しりはしょ)” の例文
その後に柳橋の幇間ほうかん、夢のや魯八が派手な着物に尻端折しりはしょりで立って居る。魯八は作り欠伸あくびの声をしきりにしたあとで国太郎の肩をつつく。
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
帆村荘六は、そこで尻端折しりはしょりをして、冷い鉄梯子てつばしごにつかまった。そして下駄をはいたまま、エッチラオッチラ上にのぼっていった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
棒縞ぼうじま糸織いとおりの一枚小袖、御納戸おなんど博多の帯一本差し、尻端折しりはしょり雪駄ばきにて、白縮緬のさがりを見せ、腕組をしながら出て
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
既に恐ろしい山崩れの個所に逢着ほうちゃくし、乗客十五人が、おのおの尻端折しりはしょりして、歩いて峠を越そうと覚悟をきめて三々五々、峠をのぼりはじめたが
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
ふたりは濡れ手拭に顔をつつんで、尻端折しりはしょりの足袋はだしで、ともかくも高輪の大通りまで出て来たが、もうその先は一と足も進むことが出来なくなった。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お隅はまた、パッチ尻端折しりはしょりの亭主の後ろ姿を見送りながら、飛騨行きの話の矢先にこんな事件の突発した半蔵が無事の帰宅を見るまでは安心しなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
頬冠ほおかぶりに尻端折しりはしょり、草履は懐中へ忍ばせたものか、そこだけピクリと脹れているのが蛇が蛙を呑んだようだ。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
爺さんは、むっつりと、苦虫を噛みつぶしたような面構えで、炉傍ろばたに煙草をかしていた。弟の庄吾は、婆さんの手伝いで、尻端折しりはしょりになって雑巾ぞうきんけだった。
駈落 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
停車場へ着くと、提灯ちょうちんを持った男が十人余り出迎えていた。法被はっぴを着た男や、しまの羽織に尻端折しりはしょりをして、靴をはいた男などがいた。中には羽織袴はおりはかまの人もあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
驚いたのは同行すべきはずの庄亮しょうりょう(歌人吉植よしうえ君)が解纜かいらん前五、六分前に、やっとリボンもつけない古いパナマ帽に尻端折しりはしょりで、「やあ」と飛び込んで来たことである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
尻端折しりはしょりの脚をすってん、ねるがごとく、二つ三つ、舞台をくるくると廻るや否や、背後うしろ向きに、ちょっきり結びの紺兵児こんへこ出尻でっちりで、頭から半身また幕へくぐったが
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
褐色かちいろの着物に黒い帯をして、尻端折しりはしょりをし、出刃をかざした形相ぎょうそうものすごい老婆の姿に、憎しみの眼を投げると共に、その腰にすがっている振袖を着た可憐な乙女に
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
組んで、尻端折しりはしょりでやるつもりですよ。私はもう今までのような東京の人では駄目だと思って来ました
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
どこも変らず、風呂敷包を首に引掛けた草鞋穿わらじばき親仁おやじだの、日和下駄で尻端折しりはしょり、高帽という壮佼あにいなどが、四五人境内をぶらぶらして、何を見るやら、どれも仰向いてばかり通る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
合羽かっぱも、いずれへか捨ててしまって、目に立たない色の手拭で頬かむりをして、紺看板のようなのに、三尺帯をキリリと結んで尻端折しりはしょり、紺の股引ももひきと、脚絆きゃはんで、すっかりと足をかため
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
半蔵は平助の付き添いに力を得て、脚絆きゃはん草鞋わらじばき尻端折しりはしょりのかいがいしい姿になった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
不思議な風体ふうていの百姓が出来上った。高瀬は頬冠ほおかぶり、尻端折しりはしょりで、股引ももひきも穿いていない。それに素足だ。さくの外を行く人はクスクス笑って通った。とは言え高瀬は関わず働き始めた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
生来の寡欲かよくと商法の手違いとから、この多吉が古い暖簾のれんたたまねばならなくなった時、かみさんはまた、草鞋わらじばき尻端折しりはしょりになって「おすみ団子だんご」というものを売り出したこともあり
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)