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實
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みの
布子一枚で其の冷たい風に慄へもしない文吾は、
實つた稻がお辭儀してゐる田圃の間を、白い煙の立ち
騰る隣り村へと行くのである。
恐らくその
爭鬪は
一生續きませう。けれども
秋々の
實りは、
必ず何ものかを私に
齎してくれるものと
信じてゐます。
やがて
實る
頃よ。——
就中、
南の
納戸の
濡縁の
籬際には、
見事な
巴旦杏があつて、
大きな
實と
言ひ、
色といひ、
艷なる
波斯の
女の
爛熟した
裸身の
如くに
薫つて
生つた。
田圃の中の稻の穗の柔かに
實つたのを
一莖拔き取つて、まだ青い
籾を
噛むと、白い汁が甘く舌の
尖端に附いた。
能く
實つた
四邊一面の
稻田が菜の花の畑であつたならば、さうして、この
路傍の柳に
混つて櫻の花が
眞盛りであつたならばと、小池は芝居の
書き
割りの
鮮かな景色を考へ出してゐた。
小池の
拵へる麥笛を奪ひ取つたことや、秋の頃二人で
田圃道を歩いて、小池が稻の穗の重さうに
垂れて
實つたのを拔き取り、
籾を噛んでは白い汁を吐き出すのを
眞似して、お光も稻の穗を拔き