富豪ものもち)” の例文
牧師は慌ててステツキ引込ひつこめた。ステツキといふのは、さる富豪ものもち寡婦ごけさんが贈つて来たもので、匂ひの高い木に金金具きんかなぐが贅沢に打ちつけてあつた。
富豪ものもちの家などでは、表へ向って、五色の屏風びょうぶをたてならべ、書画の名品や古玩骨董こがんこっとうの類を展観してみせたり、あるいは花器に花を盛って、茶をきょう
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
富豪ものもちいへでは蟲干むしぼしで、おほきな邸宅やしきはどの部屋へやも一ぱい、それがにはまであふれだしてみどり木木きゞあひだには色樣々いろさま/″\高價かうかなきもの がにほひかがやいてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
犠牲者の一人は村役人であり、もう一人は裏切りをした名主であり、もう一人は強慾の富豪ものもちであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
温かき情の身にしみし事もありしを、それすら十歳と指をるほどもなく、一とせ何やらの祝ひに或る富豪ものもちの、かゞみを抜いていざと並べし振舞ふるまひの酒を、うまし天の美禄
琴の音 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
金貸かねかしをする、質屋をする、富豪ものもちと云われるように成って、霊岸島川口町れいがんじまかわぐちちょうへ転居して、はや四ヶ年の間に前の河岸かしにずうっと貸蔵かしぐらを七つも建て、奥蔵おくぐら三戸前みとまえあって、角見世かどみせで六間間口の土蔵造どぞうづくり
其処に住む六左衛門といふは音に聞えた穢多の富豪ものもちなので。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と、内々ない/\は広い京都中でこの羽織の似合ふのは、富豪ものもちの自分を差措さしおいてはほかに誰も居るまいとでも思つてゐるらしかつた。
一とせ何やらの祝ひに或る富豪ものもちの、かゞみを㧞いていざと並べし振舞の酒を、うまし天の美祿、これを琹りに我れも極樂へと心にや定めけん、飢へたる腹にしたゝかものして
琴の音 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『五郎作。オオ、あの霊岸島れいがんじま富豪ものもちでござるか。京で、お紹介ひきあわせを得たことがござりましたな。しかし、かように零落れいらくの身ゆえ、つい暇もなし、先は大家、訪れはさし控えておりまするが』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて春見丈助は清水助右衞門を打殺うちころしまして、三千円の金を奪い取りましたゆえ、身代限りに成ろうとする所を持直もちなおしまして、する事為す事皆当って、たちまち人に知られまする程の富豪ものもちになりました。
遣欧米軍の司令官パアシング将軍の舅は、今米国のワイオミング州にゐる地方切つての富豪ものもちである。州の首府シヤイエンにだけでも四十六軒の家作を持つてゐる。
一方かた/\は前橋の竪町で、清水助右衞門と云って名高い富豪ものもちでありましたが、三千円の金を持って出たり更に帰って来ませんので、借財方から厳しくはたられついに身代限りに成りまして、微禄びろくいたし
わしたつた今読むだばかしだが、ここにこんねえな話が載つとるだよ。何でもはあ、まち富豪ものもち牝牛めうし一匹のに一万四千弗とか払つたつてこんだ。嘘くにも程があるだよ。」
一体富豪ものもちといふものは、十人が十人石のやうに冷たい顔をしてゐるもので、平素ふだん人形や阿母おつかさんやの莞爾にこ/\した顔を見馴れてゐる子供にとつては、まるで別世界の感じがするに違ひない。
(何処の国でも宗教家といふものは、富豪ものもちのなかに住んで、「貧乏」を説くのが好きなものだ。)で、づか/\とそのそばに歩み寄つたと思ふと、いつもお寺でするやうに、額へ一寸手を当てがつて