宿やどり)” の例文
扨も吉兵衞が宿やどりたる家の主人を何者なにものなると尋るに水戸中納言殿みとちうなごんどの御家老職ごからうしよくに藤井紋太夫もんだいふと云ふあり彼柳澤が謀叛むほんくみして既に公邊こうへんの大事にも及べき處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
語るものはわがこの夏霎時しばらくの仮の宿やどりとたのみし家の隣に住みし按摩あんま男なり。ありし事がらは、そがまうへなる禅寺の墓地にして、頃は去歳こぞの初秋とか言へり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
大正五年五月中浣、妻とともに葛飾は真間の手児奈廟堂の片ほとり、亀井坊といふに、仮の宿やどりを求む。人生の命運定めがたく、因縁の数寄予めまたはかりがたし。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まだ若い英国の考古学者の、ドイルス博士はその日の午後に、目的地のギゼーへ到着した。そして予め通知して置いた「ナイル旅館」の一室に当分の宿やどりを定めたのであった。
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此橋を渡るにやといふに、案内がいな/\今日けふは此岸につきて東の村/\を見玉ひて小赤倉こあかくら村にいたり玉はゞほどよき道なるべし、小赤倉には知る人もあれば宿やどりをもとむべしといふ。
さかさまに落すが如し衣袂いべい皆なうるほひてそゞろさぶきを覺ゆれば見分けんぶん確かに相濟んだと車夫の手を拂ひて車に乘ればまたガタ/\とすさまじき崖道がけみちを押し上り押しくだし夜の十時過ぎ須原すはら宿やどりへ着き車夫を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
こゝに於て、蝶の宿やどりを、秋の草にきづかつたのをあざけらない。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
終に分け入る森陰のすゞしき宿やどり求めえなば
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
見えざる神の宿やどりあり
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
上結東かみけつとうは廿九軒有)此村に市右エ門とて村中第一の大家あり、幸ひ案内者の知る人なれば宿やどりをもとめたち入りて見るに、四けんに六間ほどの住居すまゐ也、主人夫婦あるじふうふ老人らうじんにて、長男せがれは廿七八
つひに分け入る森蔭のすずしき宿やどり求めえなば
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)