大鵬たいほう)” の例文
時々あわて者が現われて、一昂奮こうふんから要路の大官を狙ったりなどするのは、畢竟ひっきょう大鵬たいほうこころざしを知らざる燕雀えんじゃくの行いである。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
燕雀えんじゃくいずくんぞ大鵬たいほうこころざしを知らんやですね」と寒月君が恐れ入ると、独仙君はそうさと云わぬばかりの顔付で話を進める。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
庭に大きな木小屋があったが、すなわち今日の格納庫で、戸をあけるとその中に粛然と大鵬たいほうが一羽うずくまっていた。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大鵬たいほうは天地に縦横すべしです。なんで区々たる窮策を告げて、人のたすけなどおたのみになるのでござるか」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白金巾しろかなきんの洋傘に、見よ大鵬たいほうの志を、図南となんの翼を、などと書きましてね。それを振りかざしたりなんかしましてね……今から思えば恥かしいようなもので、は、は、は、……
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
同五月末大元帥陛下凱旋がいせんしたまいて、戦争はさながら大鵬たいほうの翼を収むるごとく倐然しゅくぜんとしてやみぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
すべてが細かい蠢動しゅんどうになってしまうのである。薄暮の縁側の端居はしいに、たまたま眼前を過ぎる一匹の蚊が、大空を快翔かいしょうする大鵬たいほうと誤認されると同様な錯覚がはたらくのである。
映画の世界像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大鵬たいほう南を図って徒らに鷦鷯しょうりょうに笑われんのみ。余は遂に未遂の大望を他に漏らす能わざるなり。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
よく顔も見なかったのがこっちの越度おちどで、人品骨柄を見たって知れる——その頃は台湾の属官だったが、今じゃ同一所おんなじとこの税関長、稲坂と云う法学士で、大鵬たいほうのような人物、ついて居た三人は下役だね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何んとその鳥の大きいことよ! それは荘子の物語にある垂天すいてん大鵬たいほうと云ったところで大して誇張ではなさそうである。大鷲に比べて二十倍はあろうか。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大鵬たいほうひなは、雛のうちから、大鵬になる心得をもて扱っておかぬと、飼い馴れぬものでおざる
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヘルムホルツは薄暮に眼前を横ぎった羽虫を見て遠くの空をかける大鵬たいほうと思い誤ったという経験をしるしており、また幼時遠方の寺院の塔の回廊に働いている職人を見たときに
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし、笠置合戦では、この大鵬たいほうは、まだなんらの動きもその圭角けいかくも見せていない。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……そこでと、藪殿いかがでござる、せっかく貴殿も心にかけ大鵬たいほうの行方を追って来たことじゃ、これから二人でビショット氏を訪ね、大鵬すなわち飛行機なるものをとくとご覧になられては。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だが、三法師君は、まだきわめて幼少であったため、もっぱら信長の遺業いぎょうを左右し、後見人こうけんにんとなっている者はすなわち、ここ、にわかに大鵬たいほうのかたちをあらわしてきた左少将羽柴秀吉さしょうしょうはしばひでよし
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大鵬たいほうという鳥がある。よく万里を翔破しょうはします。しかし大鵬の志は燕雀の知る限りではない。古人もいっている——善人がくにを治めるには百年を期して良くざんさつを去ってす——と。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、少しつと、主人の家に帰ってからの叱言こごとだの、於福の冷たい顔などが目に見え出し、大鵬たいほうけるが如き大きな空想も掻き消えて、けし粒みたいな小さい心配にも、とらわれてしまうのだった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大鵬たいほう
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)