大悟たいご)” の例文
しらみひねる事一万疋に及びし時酒屋さかや厮童こぞうが「キンライ」ふしを聞いて豁然くわつぜん大悟たいごし、茲に椽大えんだい椎実筆しひのみふでふるつあまね衆生しゆじやうため文学者ぶんがくしやきやう説解せつかいせんとす。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
この無感情が、大悟たいごの無表現ででもあったならえらいものであるが、彼の場合は、現れたとおりの、懸値かけねなしであるからまことにあわれというほかはない。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死生を大悟たいごし、即心即仏非心非仏に到らんことを欲しながら、妄想尽きず、見透するところ甚だ浅薄な、一尿床いちにょうしょうの鬼子(寝小便たれ小僧)とは即ちこの坊主がこと。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
保吉はたちまち大悟たいごした。天下に批評家の充満しているのは必ずしも偶然ではなかったのである。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
中々の豪傑、古今東西の書を読みつくして大悟たいごしたる大哲学者と皆人恐れ入りて閉口せり。
ねじくり博士 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これがオウガスチンやルーテルあたりだと、たちま大悟たいご一番して即座に恐れ入るのだが、凡骨ぼんこつは魂の皮が厚く出来ているから、インスピレーションが通らない。無感覚なばかりか
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この比丘尼は坐禅をいたして大悟たいご徹底し、事を未然に悟る妙智力みょうちりきを備えて居りまする。
こういう大悟たいごした論拠に基づき、その職能と資力を動員して、田地家屋を質とする金貸しを始めた結果二十七年間はたりにはたり取った山林田畑合計三百三十三町歩余、家屋敷土蔵五十七棟
流石さすが明治めいぢおん作者さくしや様方さまがたつうつうだけありて俗物ぞくぶつ済度さいどはやくも無二むに本願ほんぐわんとなし俗物ぞくぶつ調子てうし合点がてんして幇間たいこたゝきておひげちりはらふの工風くふう大悟たいご
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
……ですがわが仁山大居士にんざんだいこじはもう御観念でしょう。何事も大悟たいごして、世の流れのままにどんな毀誉褒貶きよほうへんもあの薄らあばたをまぼろしとして地下に笑っておいであるに相違ございませぬ
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼にいわれたとおり、大悟たいごまなこをふさいで、もう生きる気も捨て、死ぬ気もすて、颯々と夜を吹くかぜと小糠星こぬかぼしの中に、骨のしんまで、冷たくなってしまったもののようであった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分はきょう限り、道場から身を退こうと思う。世間からも身を隠す。隠居ではない。山中へ行って、弥五郎入道一刀斎先生の分け入った道の後をたずねる心で、なお、晩成ばんせい大悟たいごを期したい。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よかろう。だが、禅とは、大悟たいごのことだ。おまえみたいな小胆者しょうたんものでは、大悟はおろか、迷って見ることもできはせぬ。——まあ、養子の口だな。お父上も心がけておるらしい。いい養子先があったら行く事だ」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)