埋木うもれぎ)” の例文
同じ迷信と言うなら言え。夫婦仲睦なかむつまじく、一生埋木うもれぎとなるまでも、鐘楼しょうろうを守るにおいては、自分も心をきずつけず、何等世間に害がない。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実は余りに惜しきお腕前、埋木うもれぎのままに置くのは勿体なしと存じて失礼ながら役向きの者に申伝えたうえ、再三度お稽古の様子を
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
森鴎外氏の『埋木うもれぎ』やそんなものを古書肆からあさって来てそれらを耽読たんどくしたり上野の図書館に通って日を消したりしながら
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
をかしかるべき空蝉うつせみのとものにして今歳ことし十九ねんてんのなせる麗質れいしつ、をしや埋木うもれぎはるまたぬに、青柳あをやぎいとのみきゝても姿すがたしのばるゝやさしの人品ひとがら
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
またある時松島にて重さ十斤ばかりの埋木うもれぎの板をもらひて、かろうじて白石の駅に持出でしが、長途のつかれ堪ふべくもあらずと、旅舎に置きて帰りたりとぞ。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
世に埋木うもれぎの花咲く事もなかりし我れ、はからずも御恩の萬一を報ゆるの機會に遇ひしこそ、息ある内の面目なれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「どうも年を取ったもんですから」と気の毒そうに、相手から眼をはずして、畳の上に置いてある埋木うもれぎの茶托をながめる。京焼の染付茶碗そめつけぢゃわんはさっきから膝頭ひざがしらっている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、『水沫集』『かげ草』の中にある飜訳の中では、オシユツプ・シユビンの『埋木うもれぎ』と、レルモントフの『浴泉記』及『ぬけうり』とが当時最も文壇を動かした。
ペチヨリンとゲザ (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
その稻垣さまが百両のお金が無ければ一生埋木うもれぎになって朽ち果てると、よく/\なればこそ女房の私に手を突いて頼むような此のお文を見ては此の儘に捨てゝ置く事は出来ない
察する所今度の学校停止に不満を抱き、この機を幸いに遊学を試みんとには非ずや、父上の御許おんゆるしこそなけれ母は御身おんみを片田舎の埋木うもれぎとなすを惜しむ者、如何で折角せっかくの志をはばむべき
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
此等の士は秀吉の敵たる者に扶持されぬ以上は、秀吉が威権を有して居る間は仮令たとい器量が有っても世の埋木うもれぎにならねばならぬ運命を負うて居たのだ。まだ其他にも斯様こういう者は沢山有ったのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
埋木うもれぎの花咲くこともなかりしに
黒壇細工! 埋木うもれぎ細工!
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
よもや文治殿はそんなつたない者ではありますまい、よしまたくとしても、生涯山中さんちゅうに隠れひそんで、埋木うもれぎ同然に世を送るような人物とはと肌が違いましょうぞ、左程逃げたき文治殿ならば
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
中で一番すぐれた影響を与へたものは、『埋木うもれぎ』と『即興詩人』である。
明治文学の概観 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
自分は田舎で埋木うもれぎのような心地こころもちで心細くってならない処。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)