うがい)” の例文
ポートサイドでレモンの皮のはいった塩水でうがいをしてスエズ運河の両岸の夜景に挟まれて身の丈を長くした妾は天晴あっぱれ一人前の女になったのです。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
鏡台の前に坐らせて、うがい茶碗でぬらした手を、男の顔へこう懸けながら、背後うしろへ廻った、とまあ思わっせえ。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
などと追々増長して、師匠の布子どてらを着て大胡坐おおあぐらをかいて、師匠が楊枝箱ようじばこをあてがうと坐ってゝ楊枝をつかうがいをするなどと、どんな紙屑買が見ても情夫いゝひととしか見えません。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一人がやおら手を取って王を寝床から椅子へ導くと、一人は大きな黄金きんたらいに湯を張ったのを持って、その前に立った。傍の一人は着物を脱がせる。他の一人はうがいをさせる。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
余は病気になって以来今朝ほど安らかな頭を持って静かにこの庭を眺めた事はない。うがいをする。虚子と話をする。南向うの家には尋常二年生位な声で本の復習を始めたようである。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
其所には代助の食後のうがいをする硝子ガラス洋盃コップがあった。中に水が二口ばかり残っていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分がうがいに立って台所へ出た時、奈々子ななこは姉なるものの大人下駄おとなげたをはいて、外へ出ようとするところであった。焜炉こんろの火に煙草をすっていて、自分と等しく奈々子の後ろ姿を見送った妻は
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
熱田之宮あつたのみやに下馬して、口をうがいし手を清め、まずは神前にぬかずいた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は八五郎を追いやるように、ガブガブとうがいをしました。
今まではさも殊勝なりし婦人おんないなずまのごとき眼を新聞に注ぐとひとしく身をそらし、のびを打ち、冷切ひえきったる茶をがぶり、口に含み、うがいして、絨毯じゅうたんの上に、どっと吐出はきいだ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
舌をこきますときは化物が赤児あかんぼでも喰うような顔付を致しまして、すっかり溜飲を吐いてからうがいを致しまして、顔を洗い、それから先ず着物を着替るので、其の永い事
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小宮山は早速うがい手水ちょうずを致して心持もさっぱりしましたが、右左から亭主、女共が問い懸けまする昨晩の様子は、いや、ただお雪がちょいとうなされたばかりだと言って
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新「水を持て、うがいをしなければならん」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
むごたらしい話をするとお思いでない。——聞きな。さてとよ……生肝を取って、つぼに入れて、組屋敷の陪臣ばいしんは、行水、うがいに、身をきよめ、麻上下あさがみしもで、主人の邸へ持って行く。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女房はきがけに、安手な京焼の赤湯呑を引攫ひっさらうと、ごぼごぼと、仰向あおむくまであらためてうがいをしたが、俥で来たのなどは見た事もない、大事なお花客とくいである。たしない買水を惜気なく使った。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)