唐橋からはし)” の例文
四宮河原しのみやがわらを過ぎれば、蝉丸せみまるの歌に想いをはせ、勢多せた唐橋からはし野路のじさとを過ぎれば、既に志賀、琵琶湖にも、再び春が訪れていた。
唐橋からはしから材木や石を曳き込んだり、所々に工事材料を積んでおいたりするので、城内の通路もほりばたも、混雑を極めていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三井、阪本、大津、膳所ぜぜ、瀬田の唐橋からはしと石山寺が、盆景の細工のように鮮かに点綴てんていされている。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
むかし近江おうみくに田原藤太たわらとうだという武士ぶしんでいました。ある日藤太とうだ瀬田せた唐橋からはしわたって行きますと、はしの上にながさ二十じょうもあろうとおもわれる大蛇おろちがとぐろをまいて、往来おうらいをふさいでていました。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
瀬田の唐橋からはしが渡る
蛍の灯台 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ほり唐橋からはしに立って、彼は水面みずもを見ていた。ぶつぶつと泡だつ潮が、水門の方から上げてくる。水に押されるように、彼は岸に添ってあるいた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瀬田の唐橋からはしを渡って草津、守山、野洲やす、近江八幡から安土、能登川、彦根、磨針すりはり峠を越えて、番場、さめ、柏原——それから左へ、海道筋をそれて見上げたところの、そらこの大きな山が胆吹山だ
彼は、城門の外へ駒をつなぎ、一息つくと、やがて唐橋からはしの口に立ちふさがっていた。手に太刀を抜き放ち、くわッと射るような眼をして、立っていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、まッくらな瀬田せた唐橋からはし小橋こばし三十六けん、大橋九十六けんを、粛々しゅくしゅくとわたってゆく一こう松明たいまつが、あたかも火の百足むかでがはってゆくかのごとくにみえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「待っている者がある? ……」と、金吾はいよいよ不審に思いながら突っ放してやると、その様子を見ながらニヤニヤして、池の唐橋からはしを渡って来た男があります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大手の唐橋からはしはそこから眼の下に見えた。藤吉郎の姿は駈足で、その唐橋を渡ってくるのだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥殿と中殿とのあいだを渡してある唐橋からはしらんに立って望むと、無数の舞扇を重ねたような天守閣の五層のひさしと、楼門の殿閣でんかく大廂おおびさしとは、見事な曲線をちゅう交錯こうさくさせている。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主従三人、愁然しゅうぜんと手をつかねて湖水のやみを見つめていると、瀬田川せたがわの川上、——はるか彼方あなた唐橋からはしの上から、炬火きょかをつらねた一列の人数が、まッしぐらにそこへいそいできた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何も知らない輿入れの列につづく人々は、また一しきり祝歌ほぎうたうたいはやしながら、やがて御所之内の唐橋からはしから花嫁の輿は揺りすすめられた。濠の水もまっ赤なほど、おびただしい松明たいまつはそこを渡った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)