半切はんせつ)” の例文
外史ばかりでなく、彼の詩、彼の書、みんな商品だ。水西荘の玄関には、半切はんせつ幾価いくら、屏風いくらと、貼り出してあるという話じゃないか。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔し島田は藤田東湖ふじたとうこの偽筆に時代を着けるのだといって、白髪蒼顔万死余云々はくはつそうがんばんしのようんぬんと書いた半切はんせつ唐紙とうしを、台所のへっついの上に釣るしていた事があった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
漱石は半切はんせつに、「人静月同照」という五字を、一行に書いた。二、三枚書きつぶしてから、今度はうまく行ったと言って漱石が自ら満足する字ができた。
漱石の人物 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
東京の絵画商人のなにがしが、京都で展覧会を開くために、今尾景年氏のとこへ、半切はんせつ揮毫きがうを頼みに出掛けた。たかが半切だと聞いて、画家は会はうともしない。
良助は立ち上がると、部屋の隅のふすまの引手を一つ外しました。中から引出したのは、半切はんせつに書いた遺書が一通。
奥原晴湖おくはらせいこの密画の懸けてあったこともあります。晴湖は明治の初めに東京に出て、下谷したやに住んで、南画の名手として知られた女の画家でした。佐藤応渠さとうおうきょ半切はんせつもありました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
この三味線しやみせんに合せて、小林君が大津絵おほつゑのかへ唄を歌つた。なんでも文句もんく半切はんせつに書いたのが内にしまつてあつて、それを見ながらでないと、理想的には歌へないのださうである。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女の見事な筆跡で書いた半切はんせつや色紙短冊が飛ぶように地方へ売れた。天下は彼女のために魅了されたと云ってもよかった。世間の評判以上の隠れた評判を彼女は保有していた。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
是れは末女の藤子が或年の春の書初めに、半切はんせつの白紙へ書いた字である。第も春も大人には不可能に思はれる勢ひで跳ねが出来て居た。作者はこの大胆さが嬉しかつたのである。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
鶴見は半切はんせつや短冊をねだって書いてもらうのを好まなかったので、そんなものは一枚も持ってはいなかった。花袋はその夜どういうわけか、その短冊を黙って鶴見に手渡したのである。
蔵書を始め一切の物を売却しようと云うことになって、ず手近な物から売れるだけ売ろうと云うので、軸物じくもののような物から売り始めて、目ぼしい物を申せば頼山陽らいさんよう半切はんせつ掛物かけものきんに売り
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
自分は金の調達ちょうだつを引き受けた。その時れは風呂敷包の中から一幅の懸物かけものを取り出して、これがせんだって御話をした崋山かざんじくですと云って、紙表装の半切はんせつものをべて見せた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
芋や南瓜を描いた無名畫家の半切はんせつに、有島武郎氏が讃をしたのを、以前、ぼくは人から貰つて持つてゐた。讃には「帝力われに何かあらん」とあつた。惜しいかな、火事で燒いてしまつた。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
ボロボロの唐紙とうし半切はんせつに見事な筆跡で、薄墨の走り書きがしてあった。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
差出したのは、半切はんせつをキリキリと畳んだ手紙、文面は
その軸は特にここのとこを飾るために自分が父から借りて来た小形の半切はんせつであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
差出したのは、半切はんせつをキリキリと疊んだ手紙、文面は