千曲ちくま)” の例文
川中島のめぐる疎林や、丘の草にも、ほのかな緑がえ出して、信濃の春は、雪解ゆきげを流す千曲ちくま川の早瀬のように、いっさんに訪れて来た。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久しぶりの千曲ちくま川はその林のはづれの崖の眞下に相も變らず青く湛へて流れてゐた。川上にも川下にも眞白な瀬を立てながら。
みなかみ紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
千曲ちくま川へ飛びこみ、のようにその流れを泳ぎ渡って、小牧山を乗り越え、それから須川の池へ身を隠してしまった。
赤い牛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして自分のすぐ前の山の、又その向ふの山を越えて、はるかに帯をいたやうなしろがねの色のきらめき、あれは恐らく千曲ちくまの流れで、その又向ふに続々と黒い人家の見えるのは、大方中野の町であらう。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
子をうみつける所はかれが心にありて一定いちぢやうならずといへども、千曲ちくま魚野うをのりやう河のがつする川口といふよりすなに小石のまじるゆゑ、これよりをおのれがうむ所とし、ながれの絶急はげしからぬ清き流水りうすゐの所にうむ也。
大根、かぶら、それらの野菜が、二人の平素の食料くいしろであった。そういう貧しい中にあっても、お霜は決して鳰鳥におどりを——しかし彼女はその頃は鳰鳥と呼ばれてはいなかった。彼女は千曲ちくまと呼ばれていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
往きかへり、千曲ちくまの川の
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
千曲ちくま少女をとめのたましひの
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
北にさい千曲ちくま
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
「一軍は、野尻を越えて、善光寺へ出でよ。一軍は謙信みずから率いて、富倉峠をこえ、千曲ちくまほとりへ出るであろう」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北海ほくかい新潟にひがた海門みなとにおつる大河だいが阿加あか川と千曲ちくま川と也。
犀川さいかわに沿い、千曲ちくまの急流を測り、山に拠ってみたり、丘を擁して兵馬を休めてみたり、容易に、そのるところの全陣地が定まらないもののように見えた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れに又、その梅作のかなしげな泣き声が、千曲ちくまの水のむせびかとも聞えることがある。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上田の城下へ入る前に、追分おいわけの辻から佐久さく街道へ折れて、青々とした麦畑や、はなに染め分けられた耕地や森や、千曲ちくま清冽せいれつなどを見渡しながら、フイに、お十夜がこう言いだした。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「彼奴に、追いつかれては大変だ。——というて、この信濃路、山越えして諏訪すわへ抜けるか、千曲ちくまの川原を渡って、更級さらしな水内みのちから越後路へはしるか、二つのうちだが……忠太はどう考えるぞ」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千曲ちくまの板橋を渡るとすぐに、日当りのいい河原蓬かわらよもぎへ腰をおろすと
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)