傷負ておい)” の例文
もう意識を失いかけて、昏倒こんとうしていた傷負ておいの若い浪人は、兵庫のことばと、手燭の明りに、又びくびくと全身の肉を痙攣ふるわせて
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう仰せられまして、火にあたれ、肌着をせ、薬はいかに、かゆを喰べよと、傷負ておいには馬まで下されて、放たれたのでござります
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何の、庭面にわも、廊下、到る所を、人数をもって取り囲ませ、多少の傷負ておいを出しましょうとも、眼をつぶって刺し奉るほぞを決めてかかれば……」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身に着けている重い物は、すべて捨てて、曹洪は一剣を口にくわえ、傷負ておいの兄をしっかと肩にかけると、ざんぶとばかり濁流の中へ泳ぎ出した。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正成の姿は、たちまち、留守していた骸骨がいこつのような人々や、傷負ておいの片輪たちに、取りすがられ、また行く道をふさがれて、歩けないほどだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
血まみれな傷負ておいが一人、よろいながら彼方より駈けて来て、何か、意味の聞きとれない絶叫をあげながら近づいて来た。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傷負ておいの狐は、すこし跛行びっこをひく気味で、時々、前へのめる様子なので、しめたと思って、近づくと、やにわに神通力を出して、何間なんげんも先へ跳んでしまう。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲冑かっちゅうは鳴った。槍と槍、刀と刀とは、噛みあい、わめきあって、またたくまに死者と傷負ておいのみが、大地にのこる。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傷負ておいうめきにつづいて、一声、牛が吠えた。丑之助は、二度めの刀で、牛の尻を撲りつけた。牛はまた、大きくえて、彼女を乗せたまま猛然と駈けだした。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼八もられ、原士の中にも沢山な傷負ておいが出た。霧がはれた頃には、夜になって、姿を探すよすがもない。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「歩けぬ者はぜひもない。傷負ておいや病人も捨てて行け。まごまごしていれば玄徳の追手に追いつかれよう」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど源軍は、宇治川以来の傷負ておいや病兵をのぞくと、範頼、義経の両方あわせても、三千騎に足らなかった。その後、鎌倉からは、一兵も補充されてはおらない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、それよりも酸鼻さんびなのは、彼の刀にあたって、処々しょしょうめいたり、這ったりしている傷負ておいや死人だ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どっちも死身しにみ、組むなり火のような息を争って、秘帖をり返そうとする! 渡すまいとする! 組んではもつれ、伏せられては突っぱねる、一方は女、一方は傷負ておい
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長の馬前へ、曳かれて来て、その郎党は、傷負ておいの苦しげな呼吸を、自分で励ましながら告げた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
由松は、何気なく、傷負ておいを抱き起して、自分の肩に負いかけたが、ふとその浪人の顔を見て——
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「杉林の向うを、まだもう一人、傷負ておいの坊主が逃げて行く。追いかけないでもいいんですか」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「水がほしい。水をくれいッ」と、絶叫しながら息をひきとってしまう病人や傷負ておいもある。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『いや、成らぬ。何と云われようが、武士の然諾ぜんだく傷負ておいを渡すことは断じて相ならぬ』
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斬り伏せられた傷負ておいのひとりが、断末苦の必死に、あえぎながらくわえた呼子笛……。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
原惣右衛門や、近松勘六や、神崎などの傷負ておいの者も、すすめられて途中から駕にした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうとう傷負ておいの一角に死にもの狂いに振りほどかれて、絶壁の岩角いわかどから、大事な秘帖ひじょうとともに、かれの姿も見失ってしまったので、悲嘆と絶望にくれて、世阿弥の亡骸なきがらにすがっていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、格外は、傷負ておいのうえに馬乗りになりながら、老公のひとみを覗きあげた。男のこめかみには小柄こづかが深く突き刺さっている。血と泥にまみれて、それはふた目と見られない形相に変っていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一個の死者と三名の傷負ておいは、息一つする間にこのりつめた圏内けんないから無視されてしまったのだ。相互がハッと呼吸いきを改めたせつなには、武蔵は自分の背を下り松の幹へひたッと貼りつけていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだけでも、驚くに足る人間の死力であるのに、その縄尻の巻きつけてある何十貫もあろう巨石おおいしが、この瀕死の傷負ておいが引っ張る力で、ズル、ズル……と一、二尺ずつ前へ動いて来たからである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傷負ておいの馬に鞭うちながら、ざんぶと、淯水いくすいの河波へ躍りこんだが、彼方の岸へあがろうとした途端に、また一矢、闇を切ってきたやじりに、馬の眼を射ぬかれて、どうと、地を打って倒れてしまった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒いまりみたいに、女の逃げた方へ素ッ飛んで行ったが、その途中に、よろめきよろめき歩いていた傷負ておい法師は、自分へ噛みついて来たと思ったか、いきなり槍を振りあげて、犬の顔をぶん撲った。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、引っ返して来た傷負ておいから聞いて、彼は、いまさらのように
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傷負ておい坊主を追いこして、麓の方へ、駈け下りて行った。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとの半数は、傷負ておいやら行方の知れぬものであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾人の傷負ておいと、幾人の死者を作ったろうか。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
騒ぎ立つと傷負ておいの番人たちはまた
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、傷負ておいの顔をのぞき直した。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『では、傷負ておいはそれよりも』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、傷負ておいの勇士は
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
味方の傷負ておいについて。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傷負ておいは行くな」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)