仰飲あお)” の例文
旧字:仰飮
そういう後では、父はさらに大酒を仰飲あおって「男の子は男親につくのだ。おふくろの後など追うな。外へ出てゆくと家に入れないぞ」
世間は気次第で忌々いまいましくも面白くもなるものゆえ、できるだけは卑劣けちさびを根性に着けず瀟洒あっさりと世を奇麗に渡りさえすればそれで好いわ、と云いさしてぐいと仰飲あお
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あくまで無礼な、人を人とも思わぬかの東条というやつ、と酔醒よいざめの水を一息に仰飲あおって、辰弥は独りわが部屋に、まなこを光らして一方をにらみつつ、全体おれを何と思っているのだ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
「くそっ」平次郎の眼はまったく夜叉仮面やしゃめんのように吊り上がって、酒と、邪推と、白刃の三つに毒を仰飲あおったように狂っているのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰でも彼でもすぐに遊びによこすよう、という片手間にぐいぐい仰飲あおる間もなく入り来る女どもに、今晩なぞとは手ぬるいぞ、とまっ向から焦躁じれを吹っかけて、飲め、酒は車懸くるまがか
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
床几しょうぎのままで、一わんの酒を仰飲あおるぐらいはしたかもしれぬ。が、おそらく酒もりと呼べるような酒などみあう余裕はなかったとみられよう。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女はグイとまた仰飲あおって、冷然として云い放った。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
悪酒を仰飲あおッた一気の酔いに淋漓りんりたる鬼のように、こういったのは無思慮な血気や、軽輩にすぎなかった。——当然、このあとのものが来る。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして昼見た夢の、ふるさとの、じじやらばばやら女房子などについひかれて、味ない酒をただ沈湎ちんめん仰飲あおっていたが
もう次の間で飲み初め、けてくるのか、すこぶるご機嫌がななめである。戴宗たいそうも大杯で仰飲あおるし、柴進さいしんも負けてない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつも自暴やけに酒を仰飲あおって執こくからむのだが、きょうは酒気はないし、青白い顔をしているのだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内蔵助は、発狂したように、手をって笑った。ひどく笑い出すと、この頃のお大尽は、手を拍っただけではやまない。酒杯さかずき仰飲あおってやたらにそこらの人間へす。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弟の影が見えなくなると、武大ぶだは軒下で声を上げて泣いた。——その泣き顔を持って二階へ戻ると、金蓮はケラケラ笑った。残りの酒を独りで仰飲あおッていたのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常に持っている小さい紙包みを、顔の上に逆さにして、緑青の粉を、一口に仰飲あおった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一睡いっすいに入る前に、たしなむ酒を仰飲あおったとみえ、座のかたわらに朱の大盃がかわいていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっそく焼肉の包みを解いてさかなとし、ひょうの口から冷や酒を仰飲あおっていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「世間は広うございますぜ、小野派ばかりが剣術のつかさでもあるめえし、もっと腹を大きくお持ちなせえ。そしてたまにゃ男らしく、グンと酒でも仰飲あおらなけりゃ、生身が続くもんじゃありません」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にが笑いを注ぎこんで、典馬は、茶碗の酒を仰飲あおった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あぶった鶏の肉を裂き、酒を仰飲あおっていたまわりの賊も
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将門は、ついに、毒杯を仰飲あおった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ついでに、苦々にがにがと杯を仰飲あおって。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
義仲は、酒を仰飲あおっていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)