今戸橋いまどばし)” の例文
今夜こんや暗くなつて人の顔がよくは見えない時分じぶんになつたら今戸橋いまどばしの上でおいとふ約束をしたからである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
聖天山しょうでんやまの工事の出来上らない限り、今戸橋いまどばしについて何かいうのは無駄である。……が、それにしても、山谷堀のお歯黒といってもない水のいろについてだけは哀しみたい。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
さて聖天しょうてん下の今戸橋いまどばしのところまで来ると、四辺あたりは一面の出水でみずで、最早もはや如何どうすることも出来ない、車屋と思ったが、あたりには、人の影もない、橋の上も一尺ばかり水が出て
今戸狐 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
待乳山まっちやまを背にして今戸橋いまどばしのたもと、竹屋の渡しを、山谷堀さんやぼりをへだてたとなりにして、墨堤ぼくてい言問ことといを、三囲みめぐり神社の鳥居の頭を、向岸に見わたす広い一構ひとかまえが、評判の旗亭きてい有明楼であった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
みいちゃんは津藤つとうに縁故があるとかいう河野こうの某を檀那だんなに取っていたが、河野は遂にみいちゃんをめとって、優善が東京に著いた時には、今戸橋いまどばしほとりに芸者屋を出していた。屋号は同じ湊屋である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
長吉ちやうきち病後びやうご夕風ゆふかぜおそれてます/\あゆみを早めたが、しか山谷堀さんやぼりから今戸橋いまどばしむかうに開ける隅田川すみだがは景色けしきを見ると、どうしてもしばら立止たちどまらずにはゐられなくなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
長吉は病後の夕風を恐れてますます歩みを早めたが、しかし山谷堀さんやぼりから今戸橋いまどばしむこうに開ける隅田川すみだがわの景色を見ると、どうしてもしばらく立止らずにはいられなくなった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
向河岸むこうがしへつくと急に思出して近所の菓子屋を探して土産みやげを買い今戸橋いまどばしを渡って真直まっすぐな道をば自分ばかりは足許あしもとのたしかなつもりで、実は大分ふらふらしながら歩いて行った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
向河岸むかうがしへつくと急に思出おもひだして近所の菓子屋くわしやを探して土産みやげを買ひ今戸橋いまどばしを渡つて真直まつすぐな道をば自分ばかりは足許あしもとのたしかなつもりで、じつ大分だいぶふら/\しながら歩いて行つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
長吉は先刻さっきから一人ぼんやりして、ある時は今戸橋いまどばし欄干らんかんもたれたり、或時は岸の石垣から渡場わたしば桟橋さんばしへ下りて見たりして、夕日から黄昏、黄昏から夜になる河の景色を眺めていた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
見ずや木造の今戸橋いまどばしはやくも変じて鉄の釣橋となり、江戸川の岸はせめんとにかためられて再び露草つゆくさの花を見ず。桜田御門外さくらだごもんそとまた芝赤羽橋むこう閑地あきちには土木の工事今まさにおこらんとするにあらずや。