乾坤一擲けんこんいってき)” の例文
いっそ乾坤一擲けんこんいってきの壮麗な復活を願ってはと思うが、所詮は夢に終るだろう。——私はこんなことを考えながら法輪寺を巡るのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
第一、尊氏はなかなか急を見ても腰をあげないたちだし、よほどでないと、乾坤一擲けんこんいってきといったような大勝負には出ないほうの人である。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人公の老富豪が取引所の柱の陰に立って乾坤一擲けんこんいってき大賭博だいとばくを進行させている最中に、従僕相手に五十銭玉一つのかけをするくだりがある。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それも、つまらぬ小細工ばかりろうして、男らしい乾坤一擲けんこんいってきの大陰謀などは、まるで出来ない。ポローニヤス、少しは恥ずかしく思いなさい。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
このままたからを抱えて、安閑として成るがままに任せてお置きになりますか、但しは、ここで乾坤一擲けんこんいってき——
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
我らがエルサレムにて戦おうとしている戦いは、乾坤一擲けんこんいってきの激戦なのだ。汝らは共通の敵を意識しなければならない。党派的分派主義にとらえられてはいけない。
乾坤一擲けんこんいってきの死闘を瞬前にして、身構えた両虎の低い呻り声が、次第次第に高く盛りあがってくる。——
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで横浜警察署でも、いわば乾坤一擲けんこんいってきの大勝負をするつもりで取りかかったんだ。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
しかし、法水が心中何事を企図しているのか知る由はないといっても、その眉宇びうの間にうかんでいる毅然きぜんたる決意を見ただけで、まさに彼が、乾坤一擲けんこんいってき大賭博おおばくちを打たんとしていることは明らかだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
乾坤一擲けんこんいってきの勝負をすることとなったのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
乾坤一擲けんこんいってきの大芝居を打ったのでした。
かれの胸中辞典には、武人がややもすると口にする乾坤一擲けんこんいってき——だの、また——運ヲ天ニマカス——などということばはない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんどは、黒のラシャ地を敬遠して、コバルト色のセル地を選び、それでもって再び海軍士官の外套を試みました。乾坤一擲けんこんいってきの意気でありました。
おしゃれ童子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
天皇心奥の深き祈りに発した乾坤一擲けんこんいってきの願であって、天平十三年の詔のごとき、その悲痛な思いと壮麗な御夢とを率直に述べてあますところがない。即ち
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
臆病者おくびょうものの常として自分もしばしば高い所から飛びおりることを想像してみることがある。乾坤一擲けんこんいってきという言葉はこんな場合に使ってはいけないだろうが、自分にはそういう言葉が適切に思い出される。
Liber Studiorum (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
俺はあの時、乾坤一擲けんこんいってきの大賭博を打ったのだよ。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「きのうも今日も、前線をめぐり歩き、敵城の位置、四囲の地勢をつらつら見ますに、ここで乾坤一擲けんこんいってきという大策は、ただ一つしかありません」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乾坤一擲けんこんいってきともいうべき途方もない壮大な計画を実現された情熱には、凡情のとうていうかがい知れぬ激しさがある。同時に、天平の深淵のすさまじさも推察される。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「暴とはいえ、光秀の乾坤一擲けんこんいってきは、ひとまず図にあたったかたちですが、このまま、うまく後の画策かくさくがすすむでしょうか」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうまでもなく、この曠世こうせいの東西両大軍の乾坤一擲けんこんいってきに自由なる平原は、木曾川を境する尾濃大平原のほかにはない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、勝頼は自負満々として、即日、全軍を攻城隊形から野戦陣形にあらためて、ここにわれ立つか彼亡ぶか、乾坤一擲けんこんいってきして、大決戦への備えを展開し始めた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乾坤一擲けんこんいってきるかるかだが、かく一同に語ろうて、この日向ひゅうがが起つからには、勝算は胸にあることだ。事成ればそなたにも、坂本の小城一つを持たせてはおかぬ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
申すまでもなく、岐阜の神戸殿を、一撃に砕き、後顧こうこを断って、忽ちにその全力を挙げ、こなたへ向って、乾坤一擲けんこんいってきの決戦をいどみ来らん覚悟をなしたものと察せられます
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そりの凄い二尺八、九寸、新九郎は常に手馴れの木剣を小野派下段の型どおりに構え、ジリ……ジリと精根を柄にしぼって、ここ、乾坤一擲けんこんいってき、真剣以上の捨身でつめ寄る。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乾坤一擲けんこんいってきに勝敗を決せんとするような大戦的構想は、遂にその折には実現されずにしまった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乾坤一擲けんこんいってき、二ツの木剣は広場の真っ唯中に組み置かれた。一方から静々と現われたのは扮装いでたち変らぬ春日重蔵、反対側から徐々と進み出たのはいまだ名乗りを聞かぬ黒髯くろひげの武士だ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし江東の兵をひきいて、乾坤一擲けんこんいってきを賭けるようなことは、おまえはわしに遠く及ばん。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ついに玄徳は、蜀の力をあげて、乾坤一擲けんこんいってきの気概をもって攻めてきた。思うに、関羽を討たれた恨みは、彼らの骨髄に徹しているだろう。どうしたらその猛攻をふせぎ得るか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乾坤一擲けんこんいってきの火ぶたを切って起った出ばなに、はからずもこの一蹉跌いちさてつを味方に見ては、いかに勝家みずから勝家をたのむも、決戦の前途に、早くも安からぬ困難を感ぜずにはいられない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よろしくここは大策を立て、織田倒るるか、武田つか、乾坤一擲けんこんいってきのお覚悟をしかとすえられ、大軍をもって盟国の急を救い、あわせて年来の大患たいかんを一挙にお除きあるべきかと信じます
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれは自分の乾坤一擲けんこんいってきが奏功したのだと一時は思ったが、よくよく後になって考えてみれば、今川の上洛計画は、すでに父の生きていた頃からのことで、父信秀は、小豆坂あずきざかや、その他の戦場で
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんどの乾坤一擲けんこんいってきに、彼が、誰よりも頼みとしているのは、大谷刑部である。その刑部の陣は、もう関ノ藤川を渡りこえて、東軍の藤堂、京極、織田の大軍へ、奮刃をあげて、ぶつかっているのだ。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)