乱波らっぱ)” の例文
この秋から冬じゅう、洛中諸所に、えたいの知れぬ火災がひんぴんと起っていたのは、あらましそれによる乱波らっぱの仕事だったのだ。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……乱波らっぱ衆(関東派)か透波すっぱ衆(関西派)か⁉ ……ここにも一人同業がござるに、ご会釈なしの素通りとはどうじゃ!
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今まではただおぞましいおそろしいとのみ思っておりました足軽あしがる衆の乱波らっぱも、土一揆つちいっき衆の乱妨も檀林巨刹だんりんきょさつの炎上も、おのずと別のまなこで眺めるようになって参ります。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
早くにこの附近へ乱波らっぱを入れておき——その煙を見つつ、彼の急襲隊は、会下山を離れて、もうついそこまで来ていたのだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今まではただおぞましいおそろしいとのみ思つてをりました足軽あしがる衆の乱波らっぱも、土一揆つちいっき衆の乱妨も檀林巨刹だんりんきょさつの炎上も、おのづと別のまなこで眺めるやうになつて参ります。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
あわよくば、その領を蚕食さんしょくすべく、つねに積極的な他の土豪の乱波らっぱ(第五列)が、純朴な農民をそそのかして、すぐ攪乱かくらんを計るものらしい。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このごろの合戦によく使われる新手な“乱波らっぱこえ”がここでもさかんに用いられて——「大塔ノ宮が叡山を下りた」、「洛中にも敵が入った」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれなんざ、こう見えても、御城内から格別なお手当をいただいて、乱波らっぱ(敵国に潜入する第五列)もやれば、隠密おんみつもやる。しかもそのおかしらだ。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
非難というのではないが、憂いのあまりに、家中にはこういう声も多少あったが、越後領から放された甲州乱波らっぱの面々は
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だのに、その道三と結び、父子の内争に、乱波らっぱの役をひきうけてやるなどは——どう考えても、日吉にはくみせなかった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さればです。……これはまだ世間に洩れておりませんが、例の手飼てがい乱波らっぱ、渡辺天蔵の早耳ですから、おそらく信をおいてよいかと思いますが」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……この男が、遠浦帰帆えんぽきはんなど持って、持ち負けせぬかな? などというお言葉は、そろそろ乱波らっぱを放って、敵国を攪乱こうらんしにかかっているものです。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こよい、常在寺の森に集まる野武士というのは、道三様が、外部から引き入れた、乱波らっぱやからかと思われる。——恐らくは、蜂須賀村の衆であろう」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気が小さいのか、兇悪な乱波らっぱとなって民衆を惑わし、城下を攪乱こうらんし、火の海を魔みたいになって活躍することなど——どうも出来そうもない気がする。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまち雲霧くもきりのように消え去ッてしまう乱波らっぱ(第五列)的な土軍の出没が近ごろになっていちじるしい。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足利方の乱波らっぱの探りでは、三日にわたる膠着戦がもととなって、正成と尊氏とのあいだには微妙な黙契があるらしい、とうたがわれ、両者はかんつうじているものだ
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも、乱波らっぱ(便衣隊)の暗躍は、こんどに限ったわけではない。足利家が幕府を都にすえてからは、のべつそれらの形なきものの口からちまた怪異かいいかれていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の陣に陣を、山陽道に沿って、幾重いくえにも置いていたのであった。——いや義貞をして、もっとてこずらせたのは、ややもすれば、後方を突いて来る乱波らっぱ(ゲリラ)であった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叔父御にそむいて、蜂須賀村を出奔して以後、久しく甲斐かいの武田家に身を寄せ、乱波らっぱの者(隠密おんみつ)の仲間に働いておりましたが、織田の動静を探って来いと命じられ、三年ほど前
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乱波らっぱの者——と、呼ばれている、いわゆる戦国の密偵仲間は、ほかの武士にはない特殊な信念を持っていた。それは職分の相違から自然に持たれてきた生命観のちがいであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これでいい。これをしるしに持ち帰って渡辺天蔵は討ったりと披露しておかばすもう。名だたる敵の侍なら知らず、多寡たか乱波らっぱの者ひとり、首を御実見なさろうとは仰っしゃるまい」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰も嫌がるこの乱波らっぱの役をいいつけられて、虎之助はいま、冠山かむりやまの城へ近づいた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはすでに夜明け前から潜入していた乱波らっぱ(しのび)の仕事であったらしい。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実は姜維きょうい魏延ぎえんなどの一軍で、その本軍はくひそかに漢中を発し、間道をとって、世上の耳目じもくも気づかぬうちに、陳倉城の搦手からめてに迫り、夜中、乱波らっぱを放って、城内に火をかけ、混乱に乗じて
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木曾の野洲川やすがわに大きな勢力を持っているばかりでなく、また兵法の達人であるばかりでなく、乱波らっぱ忍者しのび)の上手で、この男が殺そうとけねらった人間で天寿をまっとうしている者はかつてなかった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、敵の偽計だ。おそらくは乱波らっぱ流布るふ?」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)