中古ちゅうぶる)” の例文
わきの袋戸棚と板床の隅に附着くッつけて、桐の中古ちゅうぶるの本箱が三箇みっつ、どれも揃って、彼方むこう向きに、ふたの方をぴたりと壁に押着おッつけたんです。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何でも千番トラックの主人の命令で、神戸へ行って、中古ちゅうぶるのトラックを二台仕入れて来る……という話であったが、出かける時に
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
肩の円みと顔が見えて、仙台平せんだいひらはかま穿いた男が眼の前に立った。三造はその中古ちゅうぶるになった袴のひだの具合に見覚えがあった。
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
大都会の雰囲気の植えつけた中古ちゅうぶるの感傷かも知れない。ライターはもはや珍しいものではなくなっている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
葉子は何か意気な縞柄しまがらのお召の中古ちゅうぶるの羽織に、鈍い青緑とくろい紫との鱗形うろこがたの銘仙の不断着で、いつもりゅうッとした身装みなりを崩さない、いなせなオールバック頭の
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
次に取上げた手拭は、何の変哲もない中古ちゅうぶるの品で、よく乾いてしまって、泥も砂もついてはおりません。
ポピイとピリイとは、あるお屋敷の車庫の中で長い間一しょに暮して来た、もう中古ちゅうぶるの自動車です。
やんちゃオートバイ (新字新仮名) / 木内高音(著)
墓地の松林の間には、白い旗や提灯ちょうちんが、巻かれもしないでブラッと下がっていた。新しいのや中古ちゅうぶる卒塔婆そとうばなどが、長い病人の臨終を思わせるようにせた形相ぎょうそうで、立ち並んでいた。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ある日曜日の午後二時ごろ、武は様子を見るべく赤坂区あかさかく南町みなみちょうの石井をたずねた。くるまのはいらぬ路地の中で、三軒長屋の最端はしがそれである。中古ちゅうぶるの建物だから、それほど見苦しくはない。
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
省作は無頓着むとんちゃくで白メレンスの兵児帯へこおびが少し新しいくらいだが、おはまは上着は中古ちゅうぶるでも半襟はんえりと帯とは、仕立ておろしと思うようなメレンス友禅のひんの悪くないのに卵色のたすきを掛けてる。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
仮令フォードの中古ちゅうぶるにもしろ、見たところ立派やかな自動車が、それが夜の場合には、怪獣の目玉の様な、二つの頭光を、ギラギラと光らせて、毎日毎日、どことも知れず辷り出して行くのである。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
山田はこう云って食卓ちゃぶだい越しに眼をやった。三十前後の微髭うすひげの生えた精悍せいかんな眼つきをした男が坐っていた。中古ちゅうぶるになった仙台平せんだいひらはかまひだが見えていた。
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
土地の透明な光線には、(ほこりだらけな洋服を着換えた。)酒井先生の垢附あかつきを拝領ものらしい、黒羽二重二ツともえ紋着もんつきの羽織の中古ちゅうぶるなのさえ、艶があって折目が凜々りりしい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と色気のない声を出して、どかりと椅子に掛けたのは、焦茶色の洋服で、身のしまった、骨格のいい、中古ちゅうぶるの軍人といった技師の先生だ。——言うまでもなく、立野竜三郎はかれである——
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
湊屋の奥座敷、これが上段の間とも見える、次に六畳の附いた中古ちゅうぶるの十畳。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今かく中古ちゅうぶる草臥くたびれても同一おなじにおいの香水で、おっかけ追かけにおわせてある持物を取出して、気になるほど爪の伸びた、湯がきらいらしい手に短いのべの銀煙管ぎせる、何か目出度い薄っぺらなほりのあるのを控えながら
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ中古ちゅうぶるの畳なり。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)