両鬢りょうびん)” の例文
旧字:兩鬢
プリムスのひとの額は、面擦めんずれのように両鬢りょうびんの隅が禿げあがっていたが、写真のほうは、額の真甲まっこうから脳天へ薄くなっている。
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と何の苦もなく釿もぎ取り捨てながら上からぬっと出す顔は、八方にらみの大眼おおまなこ、一文字口怒り鼻、渦巻うずまき縮れの両鬢りょうびんは不動をあざむくばかりの相形そうぎょう
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
長い睫毛の間を左右のめじりへ……ほのかに白いコメカミへ……そうして青々とした両鬢りょうびんの、すきとおるようなぎわへ消え込んで行くのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
雨気を含んだ風が吹いていて、日本髪の両鬢りょうびんを鳥のように羽ばたかして、私は明滅する仁丹の広告燈にみいっていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
額のあたり少し禿げ、両鬢りょうびん霜ようやくしげからんとす。体量は二十二貫、アラビアだね逸物いちもつも将軍の座下に汗すという。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
お妾は抜衣紋ぬきえもんにした襟頸えりくびばかり驚くほど真白に塗りたて、浅黒い顔をば拭き込んだ煤竹すすだけのようにひからせ、銀杏返いちょうがえしの両鬢りょうびん毛筋棒けすじを挿込んだままで
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして眼鏡をはずす間もなく、両手を顔にあてて、下の方から、禿げ上がった両鬢りょうびんへとはげしくなで上げた。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
天辺のつるりと剥げた頭には疎らな胡麻塩の毛を後ろの方から両鬢りょうびんへかけて撫で付けている。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
しろい歯が覗いて、ほころびた顔の両鬢りょうびんには、柔らかそうな黒褐色の髪が渦巻いていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
両鬢りょうびんに霜を降らせているのに、花嫁の銀子は美しい声を失って楽壇を退いたとはいうものの、可愛らしさに磨きがかかって、婿君の左近倉平の半分と言いたい、二十五になったばかりの
夫人は、いかにもよく整った面長な中高な顔に丸髷まるまげ両鬢りょうびんを張って年にしては少し地味な柄の着物きものえりを、幾枚も張り重ねた様に見せ、何故か、厚い毛皮のショールは膝の上の手に捲き付けている。
動かぬ女 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
色紙いろがみ縮緬を掛けた高島田が、どうしたのか大分くずれていた。ほつれ毛が余りに多過ぎる程、前髪と両鬢りょうびんとから抜け出ていた。項垂うなだれているので顔はく分らないが、色の白さと云ったらなかった。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
叔父は甥の口を両手で引裂こうとし、甥は叔父の両鬢りょうびんをむしり取ろうとして、取っ組んで、棺の前に重なり合い、転がり合っている二人の身体からだに、立ち上った仲裁の会衆も手のつけようがありません。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
嬋妍せんけんたる両鬢りょうびんは、秋のせみのつばさである。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
真赤になって怒号し続ける与九郎昌秋の額には、青い筋が竜のように盛上って、白い両鬢りょうびんに走り込んでいた。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
男は両鬢りょうびんの肉と耳を少し動かして聞く。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
……どうも怪訝おかしい。とにかく一種変テコな神経を持った男に違いない……と思った。それでも頭髪あたまはナカナカ上手に刈れている。吾輩の薄い両鬢りょうびんに附けた丸味なぞ特に気に入った。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)