不行届ふゆきとどき)” の例文
旧字:不行屆
私も寄宿生の乱暴を聞いてはなはだ教頭として不行届ふゆきとどきであり、かつ平常の徳化が少年に及ばなかったのを深くずるのであります。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翌日よくじつ新聞しんぶんには、やみなか摸摸すり何人なんにんとやらんで、何々なに/\しなぬすまれたとのことをげて、さかん会社くわいしや不行届ふゆきとどき攻撃こうげきしたのがあつた。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
決して風波ふうはを起させないと云うのは、畢竟ひっきょう養父母と養子との間柄あいだがらの悪いのは養子の方の不行届ふゆきとどきだと説を極めてたのでしょう。所が私は正反対で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「——おゆるし下さいませ。お留守中の不行届ふゆきとどきから、あのように叡山の衆を怒らせたのでございます」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
些細な不行届ふゆきとどきにすら請人を呼び付けてキュウキュウ談じつけなければ腹の虫がなかったのだから、肝癖かんぺきの殿様の御機嫌を取るツモリでいるものでなければ誰とでも衝突した。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
あいにく宅は普請中でございますので、何かと不行届ふゆきとどきの儀は御容赦下さいまして、まず御緩ごゆっくりと……と丁寧に挨拶あいさつをして立つと、そこへ茶を運んで来たのが、いま思うとこの女中らしい。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「郡奉行に、村役人は、これは頭ごなしに、詮議せんぎ不行届ふゆきとどき、天一坊は贋者で無いか、こういう証拠があるのに、前任者へ責任を転嫁てんかさせるとは、不都合千万せんばんと、叱ってもらえば、一も二もあるまい」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
強犯されて一首をくちずさむも、万国無類の風流かも知れぬが、昔は何国いずくも軍律不行届ふゆきとどきかくのごとく、国史に載らねど、押勝の娘も、多数兵士に汚された事実があったのを、妙光女の五百人に二倍して
父親の監督不行届ふゆきとどきと、母親の遠慮勝ちだったことが一つはいけないのだが、娘自身生れつきの淫婦でなくては、あれだけのふしだらが出来るものでない。しかも両親は少しも知らないでいるのだ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何という脳髄の不行届ふゆきとどきであろう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
中川「今申上げた通りに飼えば滅多めったにというよりほとんど病気になる事はありません。にわとりの病気は多く飼う人の不行届ふゆきとどき横着おうちゃくから起ります」老紳士「私の友人が以前飼った時分はよくノドケとハナゲという病気になったそうです」中川「あれはとり感冒かぜです。 ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もともと私が若いから手ぬかりやら、不行届ふゆきとどきがちで、とうとう自分にたたって来たと思えば仕方がありませんが、弱らせられた事は事実です。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これを物理の原則といい、この原則を究めて利用する、これを物理学という。人間万事この理にるるものあるべからず。もしあるいはしからざるに似たる者は、いまだ究理の不行届ふゆきとどきなるものと知るべし。
物理学の要用 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その上彼女は、自分の予期通り、夫が親切に親切を返してくれないのを、足りない自分の不行届ふゆきとどきからでも出たように、はたから解釈されてはならないと日頃から掛念けねんしていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)