-
トップ
>
-
ふたこゑ
隣人が「それは自分だ」と
二声自白する間に両方の
顳顬を悠然と一刀づつ刺す。
もし/\と、
二聲三聲呼んで
見たが、
目ざとい
老人も
寐入ばな、
分けて、
罪も
屈託も、
山も
町も
何にもないから、
雪の
夜に
靜まり
返つて
一層寐心の
好ささうに、
鼾も
聞えずひツそりして
居る。
小六は
茶の
間で
少し
躊躇してゐたが、
兄から
又二聲程續けざまに
大きな
聲を
掛けられたので、
已を
得ず
低い
返事をして、
襖から
顏を
出した。
其顏は
酒氣のまだ
醒めない
赤い
色を
眼の
縁に
帶びてゐた。