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はひつ
見たら富右衞門殿へ平兵衞と云手紙が
這入てあり
然すれば
穀平殿より富右衞門殿へ送つた手紙が有からは落し
主は富右衞門殿ならん
其邊を
叩立しかば一村二百軒の百姓
夫やこそ名主殿へ盜賊が
這入たぞ
駈付て
打殺せと
銘々得物々々を
携へて其處へ來りヤア盜人は面を
墨にて
塗たるぞ
洗ひて見よと
聲々に
罵り盜人の面を
お文コレ段右衞門マア
強情も
宜加減にお
仕な
夫三五郎が
庚申堂の畑際で
拾つて來た
烟草入其中に穀平から杉戸屋の富右衞門さんの所へ
遣た手紙が
這入て居から杉戸屋の烟草入だと
言事が知れ然も其時
妾が
直に持て行うとする所へ
貴殿が來て其烟草入を
入口の
外の
軒下に
橢圓形の
据風呂があつて十二三の
少年が
入て
居るのが
最初自分の
注意を
惹いた。
此少年は
其の
日に
燒けた
脊中ばかり
此方に
向けて
居て
決して
人車の
方を
見ない。
『ヤア、これは
珍らしい
處で』と
景氣よく
聲をかけて
入て
來た
者がある。