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きぬゑ
友染の
切に、
白羽二重の
裏をかさねて、
紫の
紐で
口を
縷つた、
衣絵さんが
手縫の
服紗袋に
包んで、
園に
贈つた、
白く
輝く
小鍋である。
と
平生から
嘲るものは
嘲るが、
心優しい
衣絵さんは、それでも
気の
毒がつて、
存分に
沸かして
飲むやうにと
言つた
厚情なのであつた。
園は、
実は
其の
人たちの、まだ
結婚しない
以前から
衣絵さんを
知つて
居た……と
言ふよりも
知られて
居たと
言つて
可からう。
と
衣絵さんのもう
亡くなる
前だつた——たしか、三
度めであつたと
思ふ……
従弟の
細君が
見舞に
行つた
時の
音信であつた。
園はもの
狂はしいまで、
慌しく
外套を
脱いだ。トタンに、
其の
衣絵さんの
白い
幻影を
包むで
隠さうとしたのである。
衣絵さんに、
其の
称の
似通ふそれより、
尚ほ、なつかしく、
涙ぐまるゝは、
銀の
鍋を
見れば、いつも、
常夏の
影がさながら
植ゑたやうに
咲くのである。