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かはかぜ
と
苦笑をして
又俯向いた……フと
氣が
付くと、
川風に
手尖の
冷いばかり、ぐつしより
濡らした
新しい、
白い
手巾に——
闇夜だと
橋の
向うからは、
近頃聞えた
寂しい
處、
卯辰山の
麓を
通る、
陰火
もう
暫く
炬燵にあたつてゐたいと思ふのを、
無暗と時計ばかり気にする母にせきたてられて
不平だら/\、
河風の寒い
往来へ出るのである。
名も
懷しき
梅津の里を過ぎ、
大堰川の
邊を
沿ひ行けば、
河風寒く身に
染みて、月影さへもわびしげなり。
土手へ
上つた時には
葉桜のかげは
早や
小暗く水を
隔てた
人家には
灯が見えた。吹きはらふ
河風に
桜の
病葉がはら/\散る。
月の
出が
夜毎おそくなるにつれて
其の光は段々
冴えて来た。
河風の
湿ツぽさが次第に強く感じられて来て
浴衣の
肌がいやに
薄寒くなつた。月はやがて人の起きて
居る
頃にはもう昇らなくなつた。