やまひ)” の例文
それといふのが、時節柄じせつがらあつさのため、可恐おそろしわるやまひ流行はやつて、さきとほつたつじなどといふむらは、から一めん石灰いしばひだらけぢやあるまいか。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いやういふところやまひは多くあるものだからな、これから一つ打診器だしんき肺部はいぶたゝいて見てやらう。登「いやそれうもあぶなうございます。 ...
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
下等船客かとうせんきやくいち支那人シナじんはまだ伊太利イタリー領海りやうかいはなれぬ、ころよりくるしきやまひおかされてつひにカンデイアじまとセリゴじまとのあひだ死亡しぼうしたため
わたくしはさきに榛軒がやまひすみやかであつた時、物を安石におくつたことを記した。そして当時未だ此人の身上を詳にしなかつたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「輪飾りを引つくり返したり、障子を裏返しにすると、何かの禁呪まじなひになるでせうか。今年は流行やまひがあり相だからとか何とか」
此近在の農人のうにんおのれが田地のうちに病鶴やめるつるありてにいたらんとするを見つけ、たくはへたる人参にんじんにて鶴の病をやしなひしに、日あらずやまひいえて飛去りけり。
この国の煙草たばこやまひせぬ日にてありなばゆかしくもあらまし、日本人の売子うりこのそを勧めさふらふにも今はうるさくのみ思ひ申しさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そればかりでも身躰からだ疲勞ひらうはなはだしからうとおもはれるので種々いろ/\異見いけんふが、うもやまひせゐであらうか兎角とかくれのこともちひぬにこまりはてる
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なんといふやまひやらもらない、度々たび/″\病院びやうゐんかよつたけれども、いつも、おなじやうな漠然ばくぜんとしたことばかりはれてる。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
とゞめ此處にてもなほ種々いろ/\に療治せしかば友次郎のやまひは全くこゝろよくなりければ夫よりは忠八と諸倶もろとも所々しよ/\方々はう/″\めぐり敵の行方ゆくへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
現時げんじひとよりうらやまるゝほど健康けんかうたもれども、壯年さうねんころまでは體質たいしついたつてよわく、頭痛づつうなやまされ、み、しば/\風邪ふうじやをかされ、えずやまひためくるしめり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
「富岡さんは無類の毒舌家なンだから、気にかけないでいらつしやい。これが、このひとのやまひなンですよ……」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
嫂も剉弱ひよわい方であつたが、最近内臓に何か厄介なやまひが巣喰つて来た。切開が唯一の治療方法であつたが、年を取つてゐるので、薬物療法をとることにしてゐた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
空想くうさうは、彼のやまひである。で此の場合にも彼は何時か、自分が飛出さうと思ふ社會に就いて考へた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
かれ半年はんとし無職むしよく徘徊うろ/\してたゞパンと、みづとで生命いのちつないでゐたのであるが、其後そのご裁判所さいばんしよ警吏けいりとなり、やまひもつのちしよくするまでは、こゝつとめつてゐたのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
やくといふは、たとへば骰子さいかどがあり、ますにはすみがあり、ひとには關節つぎふしはうには四すみのあるごとく、かぜはうよりけば弱く、すみよりふけば強く、やまひうちより起ればしやすく
そのお二人がおぬらしになつた靴足袋くつたびを乾かしてお返しする時におつやさんのなすつた丁寧な挨拶を書斎に居て聞きながら、私はやまひの本家が自分になつたと思つて苦笑しました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
主治医も、助手も、看護婦も、附添婆つきそひばばも、受附も、小使も、乃至ないし患者の幾人も、皆目をそばめて彼と最も密なる関係あるべきを疑はざるまでに、満枝の頻繁しげしげやまひを訪ひ来るなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
なほる癒らんも、絲瓜へちまもおまへん。癒つて見せうちふ氣一つだす。やまひは。……」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
一三八治承ちしよう三年の秋、たひらの重盛やまひかかりて世をりぬれば、一三九平相国へいさうこく入道、一四〇君をうらみて一四一鳥羽とば離宮とつみやめたてまつり、かさねて一四二福原のかやの宮にくるしめたてまつる。
士卒しそつ(二四)次舍じしや(二五)井竈せいさう飮食いんしよくより、やまひ醫藥いやくするにいたるまで、みづかこれ(二六)拊循ふじゆんし、ことごと將軍しやうぐん(二七)資粮しりやうつて士卒しそつ(二八)きやうし、士卒しそつ粮食りやうしよく平分へいぶんして
春のなかばに病みして、花の盛りもしら雲の、消ゆるに近かきおいの身を、うからやからのあつまりて、日々にみとりし甲斐かひありて、やまひはいつかおこたりぬ、に子宝の尊きは、医薬の効にもまさるらん
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
旅行りよかうして旅宿やどいてこのがつかりするあぢまた特別とくべつなもので、「疲勞ひらう美味びみ」とでもはうか、しか自分じぶん場合ばあひはそんなどころではなくやまひ手傳てつだつてるのだからはなからいきねつ今更いまさらごとかん
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
分別ふんべつをしてこのやまひたねば、一ぢゃういまはしい不祥ふしゃうもとゐ
「ほんとに餓鬼やまひだな、今までに二三度も死にかゝつたれど、矢張り寿命があると見えて、ああして居るが、今までは親の慾目で癒るまいもんでもないと思ふとつたれど、今ではとても駄目やさかいな。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
日を継ぎてわれのやまひをおもへれば浜のまさごもしやうなからめや
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ぢやうかや足は得洗えあらはでやまひめにほどなくぼつしたりとぞ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
やまひある歯にむ朝のうれしかりけり
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やまひちりかなしみ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
此近在の農人のうにんおのれが田地のうちに病鶴やめるつるありてにいたらんとするを見つけ、たくはへたる人参にんじんにて鶴の病をやしなひしに、日あらずやまひいえて飛去りけり。
一時いちじやまひめに待命中たいめいちういたその大佐たいさが、いまかへつ健康すこやかに、このあたらしき軍艦ぐんかん」の廻航中くわいかうちうとか——さては、とわたくしたちまおもあたつたのでわる。
むねつかへのやまひしやくにあらねどそも/\とこつききたるとき田町たまち高利こうりかしより三月みつきしばりとて十ゑんかりし、一ゑん五拾せん天利てんりとてりしは八ゑんはん
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
スペインの君は幼き人二人ふたりれたる身にて、なほやまひがちに弱げなるをいとほしく何時いつも見てありさふらふ。もつとも支那人のまめまめしき乳母はしたがへるにさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ことわりしが父なる者の云るには今度むすめは江戸向の大家のよめのぞまれしがやまひ有ては相談も出來ねばふか押隱おしかく結納ゆひなふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
主人のおきなはそこで又こんな事を思ふ。人間の大厄難になつてゐるやまひは、科学の力で予防もし治療もすることが出来る様になつて来た。種痘で疱瘡はうさうを防ぐ。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
つてもつ乳媼うばをして妹妃まいひせしむ。嬌嫉けうしつごとく、のゝしつていはく、えゝうどうしようねと、やまひえたりとふ。あへせつあることなし、われくのみ。
聞きたるまゝ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「そんな役得でもなきや、十手捕繩御返上だ。“子曰く”なんか持藥にするやうな、惡いやまひはねえ」
一とせやまひかかりて、七日をたちまちにまなこを閉ぢ、いき絶えてむなしくなりぬ。
彼はゆるされざるとらはれにもおなじかる思を悩みて、元日のあくるよりいとど懊悩おうのうの遣る方無かりけるも、年の始といふにすべきやまひならねば、起きゐるままに本意ならぬよそほひも、色を好める夫に勧められて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
国府津で一緒になつた新聞記者が二人向側むかふがはに腰を掛けて居るので、この人にはやまひのためにはなしが出来ないと断つてあるのであるから、急に元気いたらいやな気持をおこさせるに違ひないと思つて
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
何よりもおぼつかなきは御所勞ごしよらうなり。かまへて、さもと、三年みとせのはじめのごとくに、きうぢ(灸治きうぢ)させたまへ。やまひなき人も無常むじやうまぬかれがたし。たゞし、としのはてにあらず法華經ほけきやう行者ぎやうじやなり。
彼女かれは、それをじつとつめてゐると、また昔處女むかしゝよぢよであつたをりに、やまひめにつねさびしかつた自分じぶんこゝろ思出おもひだしたのであつた。まちあしは、十六のをはころからひとなみにすはることが出來できなかつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
胡桃くるみまだやはらかきころにしてわれのやまひえゆくらむか
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
やまひいゆるを願はざる心我にり。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やまひちりかなしみ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
だいなやますやまひまぼろしでございます。たゞ清淨しやうじやうみづこの受糧器じゆりやうきに一ぱいあればよろしい。まじなひなほしてしんぜます。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
取交し近日婚姻こんれい致す事に成しに依てはゆき早々さう/\やまひおこらば如何にせん故に根切ねきりにあらずともとたのまれたるより今日わざ/\此方へ參りし事なりとまづ大略あらましを語りけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ながれは其麼どんなやまひにでもよくきます、わたし苦労くらうをいたしましてほねかはばかりにからだれましても半日はんにち彼処あすこにつかつてりますと、水々みづ/\しくなるのでございますよ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
兄君あにぎみやまひ重ければとて大阪へ帰り給ふ不幸の際にいましけれど何時いつも話多くなり申しさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「この道ばかりは錢形の親分でも見立てがつかねえ、——手つ取り早く言へば、戀のやまひですよ。三千石の殿樣が、町内の小間物屋の娘お君坊に惚れてしまつたんだから厄介だ」