麻裃あさがみしも)” の例文
媒人なこうどやら、叔父の小林鉄之丞やら、婚家の定紋提灯じょうもんちょうちんをぶら下げて、麻裃あさがみしもの影を、ゆらゆら、藪に描きながら、だらだら坂を降りて行った。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廻禮の麻裃あさがみしもや、供の萠黄もえぎの風呂敷が、チラリホラリと通るだけ、兩側の店も全く締めて、松飾りだけが、青々と町の風情を添へて居ります。
褒賞の式だから岡安は麻裃あさがみしもに扇子を持っていたが、その扇子を半ば開き、ぴしりと閉め、栄二の言葉が聞えなかったような表情で、窓のほうへ眼をやった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
漆紋うるしもん麻裃あさがみしもに朱鞘の長刀なががたなを横たへて、朝夕「あんちおきや」の帝の御所を守護する役者の身となつたが、さいはひここに功名手がらをあらはさうず時節が到来したと申すは
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
茶屋で、「お傘を。」と言ったろう。——「お傘を」——家来どもが居並んだ処だと、このことばは殿様に通ずるんだ、それ、麻裃あさがみしもか、黒羽二重くろはぶたえはかまで、すっとす、姿は好いね。処をだよ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女にしても見まほしいあぎとから横鬢よこびんへかけて、心持ち青々と苦味走ったところなぞ、熨斗目のしめ麻裃あさがみしもを着せたなら天晴れ何万石の若殿様にも見えるであろう。俺ほどの男ぶりに満月が惚れぬ筈はない。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
本阿弥ほんあみだの、徒目付かちめつけだの、石出帯刀いわでたてわきだのという連中が来てズラリと並び、斬り手の朝右衛門は手代てがわり弟子らと共に麻裃あさがみしもでやって来て、土壇どだんの上や試しの方式にはなかなかの故実を踏んでやることを
廻礼の麻裃あさがみしもや、供の萌黄もえぎの風呂敷が、チラリホラリと通るだけ、両側の店も全く締めて、飾り松だけが、青々と町の風情を添えております。
麻裃あさがみしもを着た男のほうは三十四五にみえるが、婦人はずっと若く、娘のようなういういしい面ざしをしていた。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すると、城の狭間はざまから、髪の白い一人の老武士が顔をだした。見ると、物の具をすっかり解いて、麻裃あさがみしもに平服を着ているのである、白扇を振って答えながら
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃は言ふ迄もなく、幕府の規綱も民間風俗も、型にはまるだけはまりきつた時代で、麻裃あさがみしもに威儀を正して、腰に一本きめ込んだ年始廻り。
控え所には宗兵衛がいて、むろんいまの裁きを聞いたのだろう、吃驚びっくりしたような顔で呼びかけたが、直衛は「あとであとで」と首を振り、麻裃あさがみしものまま役所から出ていった。
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
引きむしるやうに棺の白絹を剥ぐと、中から轉げ出したのは、何んと麻裃あさがみしもに威儀を正して、座禪ざぜん姿になつて居た、藤屋彌太郎の血潮にまみれた姿だつたのです。
麻裃あさがみしもで弓を持ち、矢壺に作法通り矢を二本入れ、馬を馬場へ乗入れてきたが、正面桟敷に向って一礼すると、肩衣かたぎぬの右をはね、馬首をめぐらして矢来の外を一巡乗り廻した。
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
御薬園の門前に迎えたのは、峠宗寿軒、五十がらみの総髪で、元々本草家で武士ではありませんが、役目ですから、麻裃あさがみしもを着けて将軍を高田御殿へ案内します。
……それから中三日おいて、平松吉之助が来た、御内意で来たと云って麻裃あさがみしもを着けていた、さては書物のお召上げかと訊くと、「そうだ」と云う、然しただお召上げだけではなかった。
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
御藥園の門前に迎へたのは、峠宗壽軒たうげそうじゆけん、五十がらみの總髮で、元々本草家で武士ではありませんが、役目ですから、麻裃あさがみしもを着けて將軍を高田御殿へ案内します。
彼は麻裃あさがみしもに改めて、辞任の挨拶にまわった。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
麻裃あさがみしもは着ておりますが、拳骨げんこつふところへねじ込んでイザといえば、これをパッと脱ぎそうな形になります。
「登城ですよ、麻裃あさがみしもを出して下さい」
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
麻裃あさがみしもを善八に着せると、私は此處に殘り、利三郎さんは棺の世話をして、幕の外へ出た筈で——」
それは兎も角として、先刻さつきまで紋附姿で多勢の客に愛嬌を振り撒いて居た主人の藤屋彌太郎は、この時麻裃あさがみしもに着換へて、正面壇上に据ゑた、ひのきくわんの中に納まりました。
その頃はまだ、大検使小検使などいうことはありませんが、寺社奉行からは、係の者が二人出張、町役人、寺の世話人、檀家総代などと、麻裃あさがみしもに威儀を正して居流れます。
一人娘の嫁入りの儀式につらなる禮裝の麻裃あさがみしも、兩刀を高々と手挾たばさんだのを、後ろに廻して、膝の汚れも構はず、乘物の中に手を突つ込み、娘の首を起してハツと息を呑みました。
一人娘の嫁入りの儀式につらなる礼装の麻裃あさがみしも、両刀を高々と手挟たばさんだのを、後ろに廻して、膝の汚れも構わず、乗物の中に手を突っ込み、娘の首を起してハッと息を呑みました。
麻裃あさがみしもを着た口上言ひが一人、月代さかやきと鼻の下に青々と繪の具を塗つて、尻下がりの丸い眉を描いて居りますが、顏立は立派な方で、身のこなし、物言ひ、妙に職業的な輕捷けいせふなところがあります。
麻裃あさがみしもを着た口上言いが一人、月代さかやきと鼻の下に青々と絵の具を塗って、尻下がりの丸い眉を描いておりますが、顔立は立派な方で、身のこなし、物言い、妙に職業的な軽捷けいしょうなところがあります。