鬢櫛びんぐし)” の例文
気の利いた口のきゝぶり、前半生に面白い話を持て居そうな女だ。負ってあるく荷は十貫目からあると云う。細君が鬢櫛びんぐしと鶴子の花簪はなかんざしを買うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
待人の紙綟こよりが結ばっていそうだし、取残したすだれの目から鬢櫛びんぐしが落ちて来そうで、どうやらみどりとばりくれないしとねを、無断で通り抜ける気がして肩身が細い。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
割合すいていて、毛糸編の羽織みたいなものを着て、くずれた束髪にセルロイドの鬢櫛びんぐしをさした酌婦上りらしい女が口をだらりとあけて三白眼をしながら懐手で膝を組んでいる。
乳房 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
あまつさえお六ぐしを造る店の前では、がらにもなく挿櫛さしぐし鬢櫛びんぐしを手にとって、仔細にその細工のあとを眺め、ふところから日誌をだして二、三種の形を写した上、値だんも聞かずに
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れば少し寒うございますなれども五月上旬はじめと云うので、南部のあい子持縞こもちじまあわせで着て、頭は達磨返だるまがえしと云う結び髪に、*ひらとの金簪きんかんを差し、斑紋ばらふの切れた鬢櫛びんぐしを横の方へ差し
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ると心配しんぱいむねたきちるやうで、——おび引緊ひきしめてをつとの……といふごころで、昨夜ゆうべあかしたみだれがみを、黄楊つげ鬢櫛びんぐしげながら、その大勝だいかつのうちはもとより、あわただしく
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は、今も鬢櫛びんぐしで、濡れたおくれ毛をかきあげながら云った。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
お島は、鬢櫛びんぐしをつかいながら、鏡台にむかっていった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(再び猿の面を被りつつも進み得ず、馬の腹に添い身をかがめ、神前を差覗さしのぞく)蘆毛よ、先へ立てよ。貴女様み気色けしきふるる時は、矢の如く鬢櫛びんぐしをお投げ遊ばし、片目をおつぶし遊ばすが神罰と承る。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弦之丞が汲んだアカ柄杓びしゃくの水に黄楊つげ鬢櫛びんぐしを濡らして
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柳の葉の散る頃は、——続いて冬枯の二日月、鬢櫛びんぐしの折れたる時は——
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)