食客しょっかく)” の例文
夫の存命していた時のように、多くの奴婢ぬひを使い、食客しょっかくくことは出来ない。しかし譜代の若党や老婦にして放ち遣るに忍びざるものもある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いく人かいる食客しょっかくのうちから、決ってこの金城寺きんじょうじ平七がお供を言いつかって来るというのも、実はこの金城寺平七という見事な名前を持っている男が
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
こうして、黒門町があいだに立って、喧嘩渡世の茨右近方へ、食客しょっかくとしてころがり込んだ神尾喬之助であった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
岡田は自分の母の遠縁に当る男だけれども、長く自分のうち食客しょっかくをしていたせいか、昔から自分や自分の兄に対しては一段低い物の云い方をする習慣をもっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
君の家は江戸ではないか、大人おとっさんは開業医と開いたが、君の家に食客しょっかくに置てれる事は出来まいか。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わたしの周囲には王氏を始め、座にい合せた食客しょっかくたちが、私の顔色かおいろうかがっていました。ですから私は失望の色が、寸分すんぶんも顔へあらわれないように、気を使う必要があったのです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そうか、野武士のぶしでも、なかなか作法さほう心得こころえている。そちのうち食客しょっかくしているあいだ、じゅうぶんにいたわってとらせろ。そのうちに、なにか、適宜てきぎ処置しょちをとってつかわす」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丹後守は、道場へ出て竜之助の試合ぶりを見てこう言うた——この道場にはべつだん誰といって師範者はないけれど、丹後守の邸には、召使のほかに、いつも五人十人の食客しょっかくがいる。
武「五斗兵衞市てえのは名か、可笑しいな、其のいえ食客しょっかくに居るものだな」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「やっぱし弟の食客しょっかくというところかなあ……」と思うほかなかった。……
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
この邸に奇寓きぐうする食客しょっかくであるが、立寄れば大樹おおきの蔭で、涼しい服装みなり、身軽な夏服を着けて、帽を目深まぶかに、洋杖ステッキも細いので、猟犬ジャム、のほうずに耳のおおきいのをうしろに従え、得々として出懸けるところ
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あなたのお父さんやお母さんに書生として育てられた食客しょっかくと心得ているんです。僕の今の地位だって、あのお兼だって、みんなあなたの御両親のおかげでできたんです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山本先生のうち食客しょっかく中も、大きな宴会でもあればその時に盗んで飲むことは出来る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
優善の夥伴なかまになっていた塩田良三りょうさんは、父の勘当をこうむって、抽斎の家の食客しょっかくとなった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
八犬伝や巡島記の愛読者であることは言うまでもない。ついてはこういう田舎いなかにいては、何かと修業の妨げになる。だから、あなたのところへ、食客しょっかくに置いて貰うわけには行くまいか。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
食客しょっかくだからと思えばしゃくにさわるが、これも一天の君の御為おんためと思えば……」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
只今くの如き見る影もない食客しょっかくの身分だから、どうかお察し下さい
岡田はまたその時分自分の家の食客しょっかくをして、勝手口に近い書生部屋で、勉強もし昼寝ひるねもし、時には焼芋やきいもなども食った。彼らはかようにして互に顔を知り合ったのである。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抽斎の家には食客しょっかくが絶えなかった。少いときは二、三人、多いときは十余人だったそうである。大抵諸生の中で、こころざしがあり才があって自ら給せざるものを選んで、寄食を許していたのだろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
年二十一のとき始めて長崎にいって、勿論もちろん学費のあろうけもない、寺の留守番をしたり砲術家の食客しょっかくになったりして、不自由ながら蘭学を学んで、その後大阪に出て、大阪の緒方おがた先生の塾に修業中も
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
食客しょっかく
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)