額髪ひたいがみ)” の例文
旧字:額髮
と言いながら、額髪ひたいがみを手で払ってやり、あわれんだ表情で夫人の顔を源氏がながめている様子などは、絵にきたいほど美しい夫婦と見えた。
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
其の鳥打帽とりうちぼう掻取かきとると、しずくするほど額髪ひたいがみの黒くやわらかにれたのを、幾度いくたびも払ひつゝ、いた野路のじの雨に悩んだ風情ふぜい
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
賽銭さいせん箱の前には、額髪ひたいがみを手拭いで巻いた子傅こもりが二人、子守歌を調子よくうたっていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
夫人は美しい白い指で、わたしの額髪ひたいがみをなでて、長いあいだわたしの顔を見た。
有合ありあう鏡台きょうだい抽斗ひきだしの、つげの小櫛もいつしかに、替り果てたる身のうさや、心のもつれとき櫛に、かかる千筋ちすじのおくれ髪、コハ心得ずと又取上げ、解くほどぬける額髪ひたいがみ、両手に丸めて打ながめ……
暴風雨の夜 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
人蔘の花、八重垣姫の花かんざしの額髪ひたいがみ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ちまきふ片手にはさむ額髪ひたいがみ 芭蕉
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ちまきゆう片手にはさむ額髪ひたいがみ
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
額髪ひたいがみをうるさがって耳の後ろへはさんでばかりいる、ただ物質的な世話だけを一所懸命にやいてくれる、そんなのではね。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
蕭殺しょうさつたるの秋の風は、よい一際ひときわ鋭かつた。藍縞あいじまあわせを着て、黒の兵子帯へこおびを締めて、羽織も無い、沢のわかいがせた身体からだを、背後うしろから絞つて、長くもない額髪ひたいがみつめたく払つた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一時間ののちには、二人の友だちは本堂から山門に通ずる長い舗石道しきいしみちを歩いていた。鐘楼しょうろうのそばにとびらを閉め切った不動堂があって、その高いえんでは、額髪ひたいがみを手拭いでまいた子守りが二三人遊んでいる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
醜いと認める者はないはずである、頭の後ろの形がどうなっているかも思わずに額髪ひたいがみだけを深く顔に引っかけて化粧をした顔を恥ずかしいとは思わぬらしい。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
なお主従の礼をくずさない態度も額髪ひたいがみのかかりぎわのあざやかさもすぐれて優美な中将だった。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)