うな)” の例文
小女こむすめうなずくようにしながら歩いた。山西もいて歩いた。歩きながら、彼は……今晩こそ逃さないぞ、と、女に眼をはなさなかった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
死ぬる日の半月ばかり前に、偶然に行きあったのは、かの、かりそめの別れとすかされて、おとなしくうなずいて別れた東の御連枝ごれんしだった。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
さっきからみると頬がこけ、眉のあたりに一種の気宇のあらわれがみえる、彼はやがて静かに顔をあげ、あるかなきかにうなずきながら云った。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
気紛れに、そこへ根をおろしたような五葉松は、仰向けに川の方へ身を反らして、水とうなずき合って、何か合図をしている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
祖父が、そばからそう云って、私をうなずかせた。「父はロスケ征伐にゆくのだ」と私は合点がってんした。私は父と別れるという様な悲しみは、少しも起らなかった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
見せたいものがあるによって、是非城中へ立ち寄れという、尾張宗春の言葉を聞くと、薬草道人うなずいた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
口の曲った特務曹長は、同じ訓練所出の松下に、満足げにうなずいて見せた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
殆ど女の方を振り向いて見無かったが、女の言葉が終ると黙ってうなずいて手鞄を開け、金貨や紙幣を交ぜて女に渡した。女は指に白手袋の吸い付いて居るイベットの手を押戴おしいただく様に喜んだ。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これが高山植物の女王なるべしといえば、水姓氏うなずき、嘉助氏も頷ずく。広義の高山植物は樹木をも含めるが、狭義の高山植物は草花也。その草花の長さ一、二寸、大なるも四、五寸をでず。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
それには日本左衛門にも、うなずかれる節がある。真土まつちの上の黒髪堂で、突然、かれが斬りつけてきた抜きうちは諸手もろてをかけてきたのであって——今思えばあの時面箱を持っていた様子はなかった。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といひかけ、うなづくわたくしかほ打守うちまもりて、きつおもてあらため
「よしよしわかった」高雄は子供に笑いかけてうなずいた、——「父さまはいま御用があるから、母さんと先にいっておいで、あとからすぐにゆくよ」
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
謙作はうなずいてみせた。洋服の男は一本の葉巻とマッチをだして、面倒くさそうに火をけた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
世外侯せがいこうの額の筋がピカピカとすると、そりゃこそおいでなすったとばかりに、並居なみいる人たちは恐れ入って平伏する。そして小声で、悪いようには計らわないから、御尤ごもっともとうなずいてしまえとすすめる。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「ふむ、なる程、なる程、面白い!」と高取はうなずいた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
すると銀之丞はうなずいたが
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「うん」とうなずいた、「なかなかいい、うん、——こりゃあなかなか閑静でいい」権八は疑わしげに旦那の顔を見た。
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
長者は黙ってうなずいて、じっと壮い男の顔を見おろしておりましたが、「ふむ、此奴こいつは、この間の奴だな、まだ赤餅あかもちの味を知らんと見えるな」とあざけるように笑って、家の内をり向いて云いました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
庄兵衛は黙ってうなずき紙入れから幾干いくばくかを取出し、懐紙に包んで差出した、すべて無言だし、こちらへ眼も向けない、「済みません」伝七郎は手早くたもとへ押込むと
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三造はうなずいてみせた。
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「それが本当であってくれたらと思います」志保はいつになく穏やかにそううなずいた、「……そしてこれからは美しくなるように努めましょう、いまの片意地という言葉は……」
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
河野はうなずいた。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「そうだと思いました」婦人は微笑しながらうなずいた
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)