頓興とんきょう)” の例文
つかつかとけ寄って、背後うしろから、ちょうど橋の真中へその一組のかかったのを、やあ、と私あ嬉し紛れに頓興とんきょうな声を懸けました。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眉の濃い、眼の可愛い、倔強くっきょうな田舎者らしい骨格をしながら色の少しあおい、真面目まじめな様で頓興とんきょうな此十七の青年と、著者の家族は大分懇意になった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼女は転がった花瓶はないけを元の位置に直して、くだけかかった花を鄭寧ていねいにその中へし込んだ。そうして今までの頓興とんきょうをまるで忘れた人のように澄まし返った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて庄造は頓興とんきょうな声を出した。リヽーがいきなり肩の上へ跳び上つて、爪を立てたからなのである。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
という委細のはなしを聞いて、何となく気が進んだので、考えて見る段になれば随分頓興とんきょう物好ものずきなことだが、わざわざ教えられたその寺を心当こころあてに山の中へ入り込んだのである。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
夫人は彼の頓興とんきょうな口の利き方に、一寸驚いて、微笑みながら聞き返した。彼女は一度日本間の方へ立去ろうとしていたのを、明智が話しかける様子なので、思い返して椅子についた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かれひるには室内しつないまどからまど往来おうらいし、あるいはトルコふう寐台ねだいあぐらいて、山雀やまがらのようにもなくさえずり、小声こごえうたい、ヒヒヒと頓興とんきょうわらしたりしているが、よる祈祷きとうをするときでも
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さぞ頓興とんきょうな声で、一座を賑わしてくれるだろう——と思うと、見えざる相手の仕掛けを待って期待と闘争心に燃える平次の胸にも、何かしら一脈の淋しさが冷たい風のように吹き入ります。
見ッともないほどたもとを膨らませて、ぼんやりして帰りがけ、その横町の中程まで来ると、早瀬さん御機嫌宜しゅう、と頓興とんきょうに馴々しく声を懸けた者がある。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて庄造は頓興とんきょうな声を出した。リリーがいきなり肩の上へ跳び上って、つめを立てたからなのである。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
薄赤くなった継子は急にいもとの方へかかって行った。百合子は頓興とんきょうな声を出してすぐそこを退いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「アラ、掃除屋さんといえば、ねえきみちゃん」一人の女中が朋輩ほうばいを顧みて頓興とんきょうな声を出した。「丁度あのあくる日ですわね。朝早くゴミを取りに来たのは。区役所の衛生夫が参りました」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さぞ頓興とんきょうな声で、一座を賑わしてくれるだろう——と思うと、見えざる相手の仕掛けを待って期待と闘争心に燃える平次の胸にも、何かしら一脈の淋しさが冷たい風のように吹き入ります。
やがて庄造は頓興とんきょうな声を出した。リヽーがいきなり肩の上へ跳び上つて、爪を立てたからなのである。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
(騒々しいじゃあないか、誰だよ。)と頓興とんきょうに、驚かされた腹立紛れ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頓興とんきょうな声を出します。
「お嬢さん、盗賊どろぼう?」と弥吉はたまりかねて頓興とんきょうな声を出す。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、庭をキョロキョロ見廻しながら頓興とんきょうな声で呼んだ。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、頓興とんきょうな女房の声がする。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)