露店ほしみせ)” の例文
門前町から沿道の露店ほしみせやら大道芸人やら立売りなどまで、見洩らすまじと、人に揉まれ揉まれ、眼をくばり歩いているふうだった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またいつか、人足もややこのあたりまばらになって、薬師の御堂の境内のみ、その中空も汗するばかり、油煙が低く、露店ほしみせ大傘おおがらかさを圧している。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
シカチェでは市場しじょうに二、三人そういう露店ほしみせを出して居るだけで、そのほかにあるかないか知りません。とにかく私の行った都会ではこの二つしか見なかったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
露店ほしみせで買った狩野家を珍重がるこの人もまた、絵を愛する人であると思えば可愛らしいところがある。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お鳥は花屋敷前の暗い木立ちのなかを脱けて、露店ほしみせの出ている通りを突っ切ると、やがて浅黄色の旗の出ている、板塀囲いの小体こていな家の前まで来てお庄を振りかえった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
砂ぼこりする露店ほしみせ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
軍の行動をさまたげない範囲に一劃いっかくを区ぎって、市を許可してあるらしい。そこに見られる掛小屋だの露店ほしみせの数は社寺の賽日さいにちを思わせるほど雑鬧ざっとうしている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間抜けさ加減だから、露店ほしみせの亭主に馬鹿にされるんだ。立派な土百姓になりゃあがったな、田舎漢いなかものめ!
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「この間、江戸へ行った時、広小路の露店ほしみせで狩野家を一枚買いました」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
戸外おもては立迷う人の足、往来ゆききも何となく騒がしく、そよとの風も渡らぬのに、街頭に満ちた露店ほしみせともしびは、おりおり下さまになびいて、すわや消えんとしては燃え出づる
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぼつぼつ露店ほしみせを並べ出し、洗濯女や一杯売りの酒瓶屋さかがめやつどい、やがて半月ともなれば、こんどは遠郷近国からも、あらゆる商人あきゅうどどもが寄って来て、忽ち、市を開き、市を目あてに
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しつ! だまつて/\と、くばせして、衣紋坂えもんざかより土手どてでしが、さいは神田かんだ伯父をぢはず、客待きやくまちくるまと、はげしい人通ひとどほり眞晝間まつぴるま露店ほしみせしろ西瓜すゐくわほこりだらけの金鍔燒きんつばやき
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
場末ではあるけれども、富山でにぎやかなのは総曲輪そうがわという、大手先。城の外壕そとぼりが残った水溜みずたまりがあって、片側町に小商賈こあきゅうどが軒を並べ、壕に沿っては昼夜交代に露店ほしみせを出す。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
書肆ほんやの文求堂をもうちっと富坂寄とみざかよりの大道へ出した露店ほしみせの、いかがわしい道具に交ぜて、ばらばら古本がある中の、表紙のれた、けばの立った、端摺はしずれひどい、三世相を開けて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
侍女一 近頃は、かんてらの灯の露店ほしみせに、紅宝玉ルビイ緑宝玉エメラルドと申して、貝をひさぐと承ります。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)