くさり)” の例文
なにか重い荷を背負い、なにか重いくさりを引きずって、とぼとぼと歩いている、そうした感じが、我にも他人にも、誰にも、相通ずる。
悲しい誤解 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「おうちかえりたいな。ひとりでは、みちがわからないし、自分じぶんちからでは、こしについているくさりることができない。」
冬は白く、春は夢の様にあわく、秋のゆうべは紫に、夏の夕立後はまさまさと青く近寄って来る山々である。近景の大きな二本松が此山のくさり突破とっぱして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
時計のくさり繻珍しゆちんの帯の上に閃かしたるちゞれ毛の束髪の顔は醜くたけひくき夫人の六尺近き燕尾服の良人の面仰ぎつゝ何やらん甘へたる調子にて物尋ねらるゝ
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ことに子供の相手は年寄としよりときまっていまして、その間にはまた大きなくさりつながって行くのであります。
うしろかたには飽くことなく、走ることくさりを離れし獵犬にひとしき黒き牝犬林に滿ち 一二四—一二六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
やがて中門ちゅうもんより、庭の柴折戸しおりどを静かに開けて、温雅しとやかに歩み来る女を見ると、まぎれもないその娘だ、文金ぶんきんの高島田に振袖のすそも長く、懐中から垂れている函迫はこせこの銀のくさりが、そのおぼろな雪明りに
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
からうじて、瓦屋根の、同じ門のつくりの、鉄道の役員の官舎らしいいへの前に来ると、其処そこそばに車井戸があつて、肥つた下女が朝日を受けて、井戸のくさりを音高くつてた。わたしは今一たづねて見た。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「そうそう。倫敦ロンドンで買った自慢の時計か。あれは多分来るだろう。小供の時から藤尾の玩具おもちゃになった時計だ。あれを持つとなかなか離さなかったもんだ。あのくさりに着いている柘榴石ガーネットが気に入ってね」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しばれる者の誰なりしや我はしらねど、彼くさりをもてその腕を左はまへに右はうしろにつながれ 八五—
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ははざるは、ゆびのつまさきからも、くちびるからもして、とうとうかたくさりってしまいました。
しかもこの連歌が追々にあとを引き、百句五十句とくさりのようにつないで行くという、また一段と悠長なものになって来たので、それを単簡なる一首両作の連歌と区別するために
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自由を尊ぶなら、なぜくさりを切って機械化から脱しようとしないのか。真に愛を人生に抱くなら、なぜ資本主義文明が、益々人間生活の不平等を造りつゝあるのに、黙止するのか。
芸術は革命的精神に醗酵す (新字新仮名) / 小川未明(著)
「しっ、しずかに、いま、おまえをしばってあるくさりってやるよ。」