鉄柵てっさく)” の例文
旧字:鐵柵
あの古い御堂を囲繞とりま鉄柵てっさくの中には、秋海棠しゅうかいどうに似た草花が何かのしるしのようにいじらしく咲き乱れていたことを思出した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
同時にこの何坪何合の周囲に鉄柵てっさくを設けて、これよりさきへは一歩も出てはならぬぞと威嚇おどかすのが現今の文明である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
民さんのお内儀さんが来てたすけてくれといい、彼は海岸にある大森警察署に行って、請人うけにん印形いんぎょうしてこの男が鉄柵てっさくの中から出てくるのをむかえた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
少しゆくと鉄柵てっさくでかこまれた大きい小学校があって、その前に学用品を売る店が道の方を向いていた。末っ子の由太のためにたのまれた王様クレヨンを買った。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
二人はおたがいに助けあって、鉄柵てっさくを飛び越えました。下は湿しめっぽい土が砂利じゃりんでいました。私はツルリと滑って尻餅しりもちをつきましたが、直ぐにまた起上りました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今日まで、生きていられるのは、水と苔と、がまのおかげである。蝙蝠こうもりはなかなか捕れないが、彼は、牢の鉄柵てっさくのそばまで這い出して、数匹の昆虫を捕って食べた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黄色に塗られた鉄柵てっさくごしに、その庭園の中から一匹のシェパアドが又しても私たちにえ出した。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
幕府にも手堅い組織があって、私情、自愛では、突破し難い鉄柵てっさくが存在していた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
鉄の門扉もんぴ鉄柵てっさくがめぐらしてあり、どんな身分かと思うような構えだったが、大場その人はでっぷりふとった、切れの長めな目つきの感じの悪い、あまりお品のよくない五十年輩の男で
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
園をかこめる低き鉄柵てっさくをみぎひだりに結いし真砂路まさごじ一線に長く、その果つるところにりたる石門あり。入りて見れば、しろ木槿もくげの花咲きみだれたる奥に、白堊しらつち塗りたる瓦葺かわらぶきの高どのあり。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
御参りに行くような人も君、沢山あると見えて、その御堂を囲繞とりまいた鉄柵てっさくのところには男や女の名が一ぱいに書きつけて有りましたっけ。ああいうところは西洋も日本も同じですね。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
闘艦=これは最もおおきくまた堅固にできている。艦の首尾には石砲せきほうを備えつけ、舷側には鉄柵てっさくが結いまわしてある。また楼には弩弓どきゅう懸連かけつらね、螺手らしゅ鼓手が立って全員に指揮合図を下す。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのをかこめる低き鉄柵てっさくをみぎひだりに結ひし真砂路まさごじ一線ひとすじに長く、その果つるところにりたる石門あり。りて見れば、しろ木槿もくげの花咲きみだれたる奥に、白堊しろつち塗りたる瓦葺かわらぶきの高どのあり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
三四郎はまったく耶蘇教やそきょうに縁のない男である。会堂の中はのぞいて見たこともない。前へ立って、建物をながめた。説教の掲示を読んだ。鉄柵てっさくの所を行ったり来たりした。ある時は寄りかかってみた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はあの御堂の周囲まわりめぐりに廻って立去るに忍びない思いをして来たその自分の旅の心を節子に話した。あの御堂を囲繞とりま鉄柵てっさくの内には秋海棠しゅうかいどうに似た草花が咲き乱れていたことなぞをも話した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)