重々じゅうじゅう)” の例文
泣き声も次第に細るばかり、その夜の十一時五分ほど前には、ついに息を引き取り候。その時の私の悲しさ、重々じゅうじゅう御察し下されたく、……
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ぽんと手を拍ち「なるほどなあ、持つべきものは女房だ、先ほどから段々の御神さんの御異見、重々じゅうじゅう恐れ入りました」と手をつきてあやまり
不肖ふしょう奉行ぶぎょうの身をもって、混乱こんらんのなかとはいえ、過激かげきたことばをはっしたのは、重々じゅうじゅうなあやまり、どうかお気持をとりなおしていただきたい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何とも申訳ありません。実は思いがけないことで取り乱した形です。今朝も家内を呶鳴りつけて出て来たんです。重々じゅうじゅう失礼の段平に御勘弁下さい」
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その点は本人にも十分申しきかせましょうし、諸先生方にも重々じゅうじゅうおわび申上げなければならないと存じています。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
お前の心さえとりなおせば向うではきっと仔細はないのだよ。なあ省作、今お前に戻ってこられるとそっちこちに面倒が多い事は、お前も重々じゅうじゅう承知してるじゃねいか
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
今更おもえば重々じゅうじゅうの心得ちがいで、それがためにおふくろが殺されるようにもなったのでございます。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その小山さんの真価ねうちを悟らないでかえって不平をいうとは重々じゅうじゅう和女の不埒ふらち
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「いや、今までのところはわしがあやまる。重々じゅうじゅう悪かった——お艶にのみ気を取られて、貴公はさぞかし甲斐ないやつと思ったことであろうが、今後は源十郎、貴公の右腕ともなって……」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いかにも不断ふだんから師匠思いのお前さん故さぞ御心配の事だろうと重々じゅうじゅうお察し申します。わしなぞは申さば柳亭翁とは一身同体。今日此頃このごろでは五渡亭国貞といえば世間へも少しは顔の売れた浮世絵師。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
重々じゅうじゅうの不とどき。小六めはただちに打首ともぞんじましたが、その者の郷里桐山村には老母もおります。かたがた、罪は家来より弟正季にあるもの。
「いや、勿論そう言っているんです。御厚意は重々じゅうじゅう感謝しますけれども、判事の感情を害すると、かえって御厚意にそむきますからと頭を下げて頼んでいるんです。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下男の密告は単にそれだけに過ぎないが、考えてみると、不審は重々じゅうじゅうであると言わなければならない。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
重々じゅうじゅう悪かった。しかし源太郎や、職業には上等と下等とがある。お前は上等の方をやるんだぞ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
易風社はその以前謝礼として壱百円を贈り来りしが発売禁止となるも博文館の如く無法なる談判をなさざる故わが方にても重々じゅうじゅう気の毒になりいそぎ『荷風集』一巻の原稿をつぐなひとして送りけり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「このおしめが!」と、呉用はまず李逵を叱っておいて「重々じゅうじゅう、すみませんでした。きっと折檻せっかんしてくれます。どうかこれで一つ、ご養生でもなすッて」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おれは貴様が独りでいるのを憐れんで、話し相手に子供を出してやると、飛んでもない怪我をさせた。重々じゅうじゅう不埒ふらちな奴だ。その罪をただして胴斬りにするから覚悟しろ」
あの高札の文句を書いたものは自分だと重々じゅうじゅう承知しながら、それでも恵印は次第次第に情けない気もちが薄くなって、自分も叔母の尼と同じように飽かず池のおもてを眺め始めました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と千吉君も重々じゅうじゅう心得ている。そうして格子戸を明けてまたぎかけたが
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
保吉はとうとう癇癪かんしゃくを起した。父さえ彼の癇癪には滅多めったたたかいいどんだことはない。それはずっとりをつづけたつうやもまた重々じゅうじゅう承知しているが、彼女はやっとおごそかに道の上の秘密を説明した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……だけど、あまりといえば憎い奴——悪い代官——それにおれが恩人とも思っている山吹さまを、ひどにあわすので、つい復讐しかえしをしてやる気になったんです、悪いことは重々じゅうじゅう知っておりましたが
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ウーム、それも重々じゅうじゅう拙者せっしゃが悪かった、ひらにあやまる」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「は、はい。重々じゅうじゅう
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「は。……重々じゅうじゅう
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)