“遠寺(ゑんじ)” の例文
数言(すげん)興(きよう)尽(つ)きて、遠寺(ゑんじ)の鐘(かね)一五六五更を告ぐる。夜既(すで)に曙(あ)けぬ。別(わか)れを給ふべし。こよひの長談(ながものがたり)まことに君が眠(ねむり)をさまたぐと、起(た)ちてゆくやうなりしが、かき消して見えずなりにけり。
報(つぐ)る遠寺(ゑんじ)の鐘(かね)ガウ/\と響(ひゞ)き渡り最(いと)凄然(ものすご)く思はるればさしも強氣(がうき)の者共も小氣味(こきみ)惡々(わる/\)足に任(まか)せて歩行(あゆむ)中(うち)青(あを)き火の光り見えければ彼(あれ)こそ燒場(やきば)の火影(ひかげ)ならんと掃部は先に立て行程に早(はや)隱亡小屋(をんばうごや)に近接(ちかづく)折柄(をりから)道の此方(こなた)なる小笹(をざさ)の冠(かぶ)りし石塔(せきたふ)の蔭(かげ)より一刀閃(ひら)りと引拔稻妻(いなづま)の如く掃部が向う脛(ずね)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ぞ籠(こめ)たりける此所は名に負(おふ)周智郡(すちごほり)大日山の續(つゞ)き秋葉山の絶頂(ぜつちやう)なれば大樹(だいじゆ)高木(かうぼく)生茂(おひしげ)り晝さへ暗(くら)き木下闇(このしたやみ)夜は猶さらに月暗(くら)く森々(しん/\)として更行(ふけゆく)樣に如何にも天魔(てんま)邪神(じやしん)の棲巣(すみか)とも云べき峯(みね)には猿猴(ましら)の木傳ふ聲谷には流水滔々(たう/\)と而(して)木魂(こだま)に響(ひゞき)遠寺(ゑんじ)の鐘(かね)も最(いと)物凄(すご)く遙に聞ば野路(のぢ)の狼(おほかみ)吼(ほえ)て青嵐颯々(さつ/\)と梢(こずゑ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)