通油町とおりあぶらちょう)” の例文
わたしは日本橋区の通油町とおりあぶらちょうというところから神田小川町おがわまち竹柏園ちくはくえん稽古けいこに通うのに、この静な通りを歩いて、この黒い門を見て過ぎた。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
国貞はここから大川橋へ廻って亀井戸かめいど住居すまいまで駕籠かごを雇い、また鶴屋は両国橋りょうごくばしまで船をぎ戻して通油町とおりあぶらちょうの店へ帰る事にした。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこにゃちっとばかり、かけたつるがあってのことよ。——のうおせん。おめえは通油町とおりあぶらちょうの、橘屋たちばなや若旦那わかだんなってるだろう
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
帰りがけに通油町とおりあぶらちょうの鶴屋という草紙問屋そうしどんやへ寄って、誰へのみやげか、新版の錦絵を買い求めながら、ふとかたえを見ると、お屋敷風の小娘が一人、十冊ばかりの中本ちゅうほんの草紙を買い求めて
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのころ通油町とおりあぶらちょうに住んで、町医者でありながらひとかど以上の見識を持っていた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
これはあたくしの父が、幼いころの気味のるかったことという、談話はなしのおりにききましたことです。場処は通油町とおりあぶらちょうでした。
人魂火 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
柳亭種彦先生は昨夜の晩おそく突然北御町奉行所よりお調しらべの筋があるにより今朝五ツどきまでに通油町とおりあぶらちょう地本問屋じほんどんや鶴屋喜右衛門つるやきうえもん同道にて常磐橋ときわばし御白洲おしらす罷出まかりでよとの御達おったしを受けた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いやがるあたしにふみかせ、そのふみを、二十五りょうに、っておもらいもうすのだと、ッたくるようにして、どこぞへせましたが、そのおひとだれあろう、通油町とおりあぶらちょうの、橘屋たちばなや徳太郎とくたろうさんという
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
通油町とおりあぶらちょうの大通りの向う側の横町は南新道、それとならんだ通りが大丸新道、この一丁は、大丸の土蔵の窓——裏側なのです——に金網が張ってあり、湯殿も、台所もみなおなじ。
偐紫田舎源氏にせむらさきいなかげんじ』の版元はんもと通油町とおりあぶらちょう地本問屋じほんどんや鶴屋つるや主人あるじ喜右衛門きうえもんは先ほどから汐留しおどめ河岸通かしどおり行燈あんどうかけならべたある船宿ふなやどの二階に柳下亭種員りゅうかていたねかずと名乗った種彦たねひこ門下の若い戯作者げさくしゃと二人ぎり
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)