かがやか)” の例文
お葉は人の少い通に出た時、かがやかしい瞳を上げて大空を仰いだのである。そして、「私は本當に死ぬんだもの、三十三には死ぬんだもの、」
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
千駄木せんだぎ崖上がけうえから見るの広漠たる市中の眺望は、今しも蒼然たる暮靄ぼあいに包まれ一面に煙り渡った底から、数知れぬ燈火とうかかがやか
もすそをずりおろすようにしてめた顔と、まだつかんだままのおおきな銀貨とをたがい見較みくらべ、二個ふたりともとぼんとする。時に朱盆しゅぼんの口を開いて、まなこかがやかすものは何。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ菫もお星様もこの世界になかったの。そこでねえ坊や、青い空をすこしばかり分けてもらってそれを世界中にかがやかしたものがあるの。それが菫の一番はじまりなんだよ」
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「返事がなければ」と、例の男が、たちまち恐ろしいおもてかがやかしていった。「主義反対と見なしますぞ。われわれが、道々って来たと同じ方法により、主義反対の者の解消を要求する」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼のふところを出でたるは蝋塗ろぬりきらめ一口いつこうの短刀なり。貫一はその殺気にうたれて一指をも得動かさず、むなしまなこかがやかして満枝のおもてにらみたり。宮ははや気死せるか、推伏おしふせられたるままに声も無し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一とたびその石段を切通しへ下りたとき、一とあしその池のそばを広小路のほうへ出抜けたとき、そこにすぐよこたわっているのはかがやかしい街衢である。整然とごった返した近代的大街衢である。
上野界隈 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
底光りのする空を縫った老樹のこずえには折々ふくろが啼いている。月の光は幾重いくえにもかさなった霊廟の屋根を銀盤のように、その軒裏の彩色を不知火しらぬいのようにかがやかしていた。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
縁日の露店はこの通には出ていない。九州亭というネオンサインを高くかがやかしている支那飯屋の前まで来ると、改正道路を走る自動車のが見え蓄音機の音が聞える。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
石榴ざくろの花と百日紅ひゃくじつこうとは燃えるような強い色彩を午後ひるすぎの炎天にかがやかし、眠むそうな薄色の合歓ねむの花はぼやけたべに刷毛はけをば植込うえごみの蔭なる夕方の微風そよかぜにゆすぶっている。単調な蝉の歌。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)