ごえ)” の例文
「さようならば、御免をこうむりまする。伊賀ごえでおいでなすったお客じゃないから、わし股引ももひきむそうても穿いて寝るには及ばんわ、のうお雪。」
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帰る時には玄関まで送ってきて、「今日は二百二十日だそうで……」と云われた。三人はその二百二十日の雨の中を、また切通きりどおごえに町の方へくだった。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梅「お互だって当りまえで、馬鹿々々しいね、本当にくあんなことが云われたと思うのだよ、私は本当に高岡を出て、お前に連れられて飛騨の高山ごえに」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
越後口から奥州路おうしゅうじに進出し、六十里ごえ、八十里越のけわしい峠を越えて会津口にまで達したという従軍の諸隊は、九月二十二日の会津落城と共に解散命令が下ったとの話を残し
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
京から大津へ出る美濃路の口にあたる栗田口や逢坂ごえには、兇悪無慙な剽盗ひょうとうがたむろしていて、昼でも一人旅はなりかねる時世だったが、泰文は蝦夷拵えぞごしら柄曲えまげの一尺ばかりの腰刀を差し
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これまでは、内浦で、それからは半島の真中まんなかを間道ごえに横切って、——輪島街道。あの外浦を加賀へ帰ろうという段取になると、路がけわしくって馬が立たない。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかるにまた身をさかにして義経流に松の木ごえをやって見給え。爪はあっても役には立たん。ずるずる滑って、どこにも自分の体量を持ち答える事は出来なくなる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その裏座敷に、二人一組、別に一人、一人は旅商人たびあきゅうど、二人は官吏らしい旅客がいて憩った。いずれも、やなから、中の河内ごえして、武生へくだる途中なのである。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其處そこで、暑中休暇しよちうきうか學生がくせいたちは、むしろ飛騨越ひだごえ松本まつもとけんをかしたり、白山はくさんうらづたひに、夜叉やしやいけおく美濃路みのぢわたつたり、なかには佐々成政さつさなりまさのさら/\ごえたづねたえらいのさへある。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)