赤瓦あかがわら)” の例文
ドイツでは行っても行っても洪積期こうせききの砂地のゆるやかな波の上にばらまいた赤瓦あかがわらの小集落と、キーファー松や白樺しらかばの森といったような景色が多い。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
キャラコさんは、ひろい茅原かやはらのなかに点綴てんてつするアメリカ村の赤瓦あかがわらを眺めながら、精進湖しょうじこまでつづく坦々たんたんたるドライヴ・ウェイをゆっくりと歩いていた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ぱらりと開けてわずかな緑地が見えてサラリイマンの住宅らしい赤瓦あかがわらの小さな屋根が、ちらりほらり見える。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
現に彼が持っていた郊外の或地面などは生姜しょうがさえろくに出来ないらしかった。けれども今はもう赤瓦あかがわらの家や青瓦の家の立ち並んだ所謂いわゆる「文化村」に変っていた。………
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
白っぽい石壁に赤瓦あかがわらを置いた、そこらに多い建物のひとつで、這入ると、正面の廊下を挟んで左右に幾つも小さな部屋が並んでた。それがみんないわゆる歌留多かるた場だった。
郊外らしい空気につつまれた対岸の傾斜には、ところどころに別荘風な赤瓦あかがわらの屋根も望まれた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
津和野に入ると石見いわみに入ったという想いがする。なぜなら緑の山や森の背景に赤瓦あかがわらが急に輝き出すからである。それは自然をかえ建築をかえる。こればかりは他の国々では見られない。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そうそうわたくしはツイ近頃ちかごろ不図ふとした機会おりに、こちらの世界せかいから一鎌倉かまくらのぞいてましたが、赤瓦あかがわら青瓦あほがわらいたちいさな家屋かおくのぎっしりんだ、あのけばけばしさには、つくづくあきれてしまいました。
前が低い生垣いけがきになっている、赤瓦あかがわらに白壁の文化住宅式の小さな二階家で、ただ「奥畑」とだけ記した表札が上っていたが、表札の木が新しかったのを見ると、極く最近に移って来られたのであろう。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼はその石垣の上からしばらく自分の宿とする田舎家までも見ることは出来なかったまでも、耕地の多い対岸の傾斜に並ぶ仏蘭西の田舎らしい赤瓦あかがわらの屋根を望むことは出来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
至るところの新緑と赤瓦あかがわらの家がいかにも美しい。高いがけの上の家に藤棚ふじだならしいものが咲き乱れているのもあった。やがてロンバルディの平原へ出る。桑畑かと思うものがあり、また麦畑もあった。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
藤棚ふじだなが、藤蔓ふじづるからんだ棚の部分だけ地面とすれすれに残ってい、その傍に流木が二三本積み重なったまま動かなくなっていたが、その時思いがけなくも、住宅の赤瓦あかがわらの屋根の上に、妙子と、板倉と
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
出雲人は怜悧れいり、石見人は剛直ごうちょく、こう古書にも書いてあるという、同じ県下の国ではあるが、自然も人間も異なると見える、車が波根を過ぎて田儀に進めば国境である、見れば赤瓦あかがわら石州せきしゅうは早くも終り
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
新緑のあざやかな中に赤瓦あかがわら白壁しらかべの別荘らしい建物が排置よく入り交じっている。そのような平和な景色のかたわらには切り立った懸崖が物すごいような地層のしわを露出してにらんでいたりする。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)