へん)” の例文
丁謂は恐しいような、又然程さほどでも無いような人であるが、とにかく異色ある人だったに違い無く、宋史の伝は之をへんするに過ぎている嫌がある。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかしこの理由を以てヨブをへんすることは出来ない。この大なる差異は、キリストを知ると知らぬに基因するのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ナロード主義が、空想的であって、マルクス主義が科学的である故に、前者に、大衆を獲得する力がないといって、へんすることができるであろうか。
純情主義を想う (新字新仮名) / 小川未明(著)
あたかも東洋の美術に心酔する者が西洋の美術を以て尽く野卑なりとしてへんするが如し。艶麗、活溌、奇警なる者の野卑に陥りやすきはもとよりしかり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この年抽斎の次男矢島優善やすよしは、遂に素行修まらざるがために、表医者おもていしゃへんして小普請こぶしん医者とせられ、抽斎もまたこれに連繋れんけいして閉門三日さんじつに処せられた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
愛すべきものはれ故郷なるか、故郷には名状すべからざるチヤームの存するあり。風流雅客をあざけるもの、邦家を知らざるの故を以て彼等をへんせんとする事多し。
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
詩は人の心琴しんきんかなで人の血をつ。曹植の詩は曹植のいのちを救った。即日、安郷あんきょう侯にへんされて、孤影を馬の背に託し、悄然しょうぜん兄の魏王宮から別れ去ったのである。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにもかかわらず、とかくに自己を挙げて京伝をへんする如き口吻こうふんを洩らすは京山のいう如く全くこの人にしてこの病ありで、この一癖が馬琴のかなえの軽重を問わしめる。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
花袋君は六年前にカッツェンステッヒを翻訳せられて、翻訳の当時は非常に感服せられたが、今日から見ると、作為の痕迹こんせきばかりで、全篇作者のこしらえものに過ぎないとへんせられた。
田山花袋君に答う (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その先進篇が、子路をへんするいくつかの問答の初頭に右の問答を掲げたということは、この問答において子路がいかにばかばかしい問題を提起したかを示すものと見なくてはならぬ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
今まで物を讃えると、唯物主義とそしられたり、物を仰ぐと偶像だとへんせられたりしたが、しかしそれは唯心主義の行き過ぎで、「心」と「物」とをそんなに裂いて考えるのはおかしい。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
反対に他の場合には如何いかなる懐疑も懐疑であるという理由で容赦なく不道徳としてへんせられている。懐疑は知性の一つの徳であり得るであろうに。前の場合、懐疑そのものが一つの独断となる。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
既にして正弘はいた。そして柏軒は何のとがめをも受くることなく、只奥医師より表医師にへんせられたのみであつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あたかも東洋の美術に心酔する者が西洋の美術をもってことごとく野卑なりとしてへんするがごとし。艶麗、活溌、奇警なるものの野卑に陥りやすきはもとよりしかり。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
すなわち人類なるものは利慾中心の生物にして、決して善そのもののために善を求むる如きことなしと主張して、この人間を造りし神自身をも利慾的存在者とへんしたのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
然し秀吉が之を清須百万石から那賀へへんしたのも余りひどかった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
優善は不行跡ふぎょうせきのために、二年ぜんに表医者から小普請医者にへんせられ、一年ぜんに表医者すけに復し、父を喪う年の二月にわずかもとの表医者に復することが出来たのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
政治家として如何に実朝をへんするとも、歌人として万葉以後ただ一人たるの名誉は終にこれを歿すべからず。将軍実朝は一事を為さずして、廿八歳の歌人は能く成功せり。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いたずらにこれをへんするが如きは、敬虔けいけんの念乏しく真摯しんしにおいて欠くる所の態度である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)