覬覦きゆ)” の例文
それをわずかに覬覦きゆしては仰天しているという事も聞いているが、西洋はそんな精神界の貧困を、科学によって補強しようとした。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かかる天下柔弱軽佻けいちょうの気風を一変して、国勢の衰えを回復し諸外国の覬覦きゆを絶たねばならないとの意見を持つものがあるようになった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母のしいたげ、五十川いそがわ女史の術数じゅっすう、近親の圧迫、社会の環視、女に対する男の覬覦きゆ、女の苟合こうごうなどという葉子の敵を木村の一身におっかぶせて
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
其他そのた利己心りこしんおほ人々ひと/″\覬覦きゆから、完全くわんぜんその秘密ひみつたもたんがめに、みづか此樣こん孤島はなれじましのばせて、その製造せいぞうをもきわめて内密ないみつにして次第しだいだが——。
道鏡の天位を覬覦きゆするに至った事が、阿曾麻呂の奏言によって始まったことは勅撰の国史の明記するところである。
道鏡皇胤論について (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
〔註〕氏はまず日本政府は近ごろ露国が対馬を覬覦きゆするとの風説あるを聞きて憂慮するところある由なるが
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そこでつと覬覦きゆの心をいだいてゐたといふことは、面白さうではあるが、正統記に返還していのである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
わずかに聖者のみあって、不入に針を入れ、壁立に足を爪立つ。われらにあってはただ嗟嘆するのみ。ただ幸いに芸術の在るありて感覚と情緒とにより、彼の風韻を覬覦きゆし得る。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
忽ち慨然大喝し、「本邦の如き、国体万国に卓越し、皇統連綿として古来かつて社稷しゃしょく覬覦きゆしたる者なき国においては、かくの如き不祥の条規は全然不必要である。速に削除せよ」
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
この術士常にマケドニア王フィリポスの后オリムピアスを覬覦きゆしたがそのひまを得ず、しかるに王軍行して、后哀しみおもう事切なるに乗じ、御望みなら王が一夜還るよう修法しゅほうしてあげるが
まだパデレフスキーの王座を覬覦きゆするものは一人もあり得ない。
日本の国を覬覦きゆしている。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼が畏れ多くも天位を覬覦きゆし奉った事についても、そこに幾分の理由が認められ、それが必ずしも彼が仏教徒であったが為ではないとの言い開きも立つ訳だというにあった。
道鏡皇胤論について (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
然無さなくても古より今に至るまで、関東諸国の民、あすこにも此所にも将門の霊をまつつて、隠然として其の所謂いはゆる天位の覬覦きゆしやたる不届者に同情し、之を愛敬してゐることを事実に示してゐる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
燕王覬覦きゆじょう無きあたわざりしといえども、道衍のせんして火をあおるにあらざれば、燕王いまだ必ずしも毒烟どくえん猛燄もうえんを揚げざるなり。道衍そも又何の求むるあって、燕王をして決然として立たしめしや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)