複雑こみい)” の例文
旧字:複雜
それは、むかし鎌倉かまくら奥山おくやまでよくききれた時鳥ほととぎすこえ幾分いくぶんたところもありますが、しかしそれよりはもッとえて、にぎやかで、そして複雑こみいった音色ねいろでございます。
是寺このてらの広く複雑こみいつた構造たてかたといつたら、何処どこ奈何どういふ人が泊つて居るか、其すらくは解らない程。平素ふだんは何の役にも立ちさうも無い、陰気な明間がいくつとなく有る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
弾正橋から白魚橋へ曲ろうとする地形の複雑こみいった場所なぞでは、一度ならず二度三度、甚右衛門は駈け戻って来て、氷のように冷い鼻頭を彦の脚へ擦りつけたり、邪魔になるほど
このあいだの晩、お鉄が両国橋の上をさまよっていたのも、身投げや心中というほどの複雑こみいった問題でもなく、あるいは単に逢曳あいびきの約束をきめて、あすこで男を待ち合わせていたのかも知れない。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「だいぶ、複雑こみいった話になりましたな。それで?」
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
人間にんげん世界せかいは、主従しゅじゅう親子おやこ夫婦ふうふ兄弟きょうだい姉妹等しまいなど複雑こみいった関係かんけいで、いろとりどりの綾模様あやもようしてりますが、天狗てんぐ世界せかいはそれにきかえて、どんなにも一ぽん調子ちょうし
初心うぶで、複雑こみいつた社会よのなかのことは一向解らないものばかりの集合あつまりではあるが、流石さすが正直なは少年の心、鋭い神経に丑松の心情こゝろもちを汲取つて、何とかして引止める工夫をしたいと考へたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あまり多愛たあいのないおはなしばかりつづきましたので、今度こんどすこしばかり複雑こみいったおはなし……一つ願掛がんかけのおはなしいたしてましょう。この願掛がんかけにはあまり性質たちいのはすくなうございます。