衷心ちうしん)” の例文
「おとつゝあ、そんでもちつた確乎しつかりしてか」勘次かんじいていた。ほつといきをついたやうな容子ようす勘次かんじ衷心ちうしんからのよろこびであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
我々は天の橋立に大敵と戦ふ重太郎には衷心ちうしんの不安を禁ずることは出来ぬ。けれども衆議院の演壇に大敵と戦ふ後藤子爵には至極に冷淡に構へられるのである。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は自分の目的の偉大なこと、善きことを衷心ちうしんから感じてゐるのであつた。彼がそれを辯護するのを聞いた他の人々も、同じやうに、さう感ぜずにはゐられなかつた。
又一方から見ると作者さくしやあい實際じつさいにその衷心ちうしんからにじみ出てゐる例へば「小さき者へ」の中に於ける、子供に對する主人公のあいといつたやうな場合には、そこにかもされてゐる實感じつかんの強さから
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ホテルまえしかゝつたとき、夫人ふじん衷心ちうしんからそれを切望せつぼうするやうにつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
このてんむかつては我輩わがはい衷心ちうしん歡喜くわんききんぬのである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
「それぢやおまへ、まあこのぜにしまつたらどうだね」と内儀かみさんがうながしたのであつた。衷心ちうしんからこまつたやうなかれむかつて内儀かみさんはもう追求つゐきうするちからもたなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「おつうらとつても今度こんだあ駄目だめだよ」勘次かんじ果敢はかない自分じぶん心持こゝろもちゆゐ一の家族かぞくであるおつぎの身體からだけるやうにしをつていつた。勘次かんじ衷心ちうしんから恐怖きようふしたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)