ないがし)” の例文
出入のものは皆これを知っているから、手っ取り早く直接じかに奥さんに当りたがる。しかし夫人はそんな良人をないがしろにした行動を許さない。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あの子は毎月の謝礼をさえおこたり今また白仙羹ひと折を中元と称して持参するとは無礼の至り師匠をないがしろにすると云われても仕方がなかろう
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
牛や馬のように、首玉へなわいわえつけておいて、むざむざとほふられるのだ。それはあまりに怖ろしい、あまりに人間性をないがしろにしたものだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
親戚なる某は襄を以て無頼の子なりと云ひ藩人は襄を以て国恩をないがしろにするものなりと議せしかども襄の叔父は善く襄の志を知るものなりき。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
然し私が一番頼らねばならぬ私は、過去と未来とにはさまれたこの私だ。現在のこの瞬間の私だ。私は私の過去や未来をないがしろにするものではない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
西洋の画家は色を研究します、東洋とても色をないがしろにはしませんが、形を写せば、色はおのずから出て来る道理です
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし眼前の幸福は衆人が望むことでありますから、仏、菩薩においてもこれをないがしろにしないで工夫に工夫を凝らされていることはもちろんのことであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まア/\それでは即ち人民たるものゝ権利をないがしろにすると云うものだから、先ず心を静め給え、一体当県は申すに及ばず全国一般の幸福たるをおしはかって見れば
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これは公方様くぼうさまないがしろにしたものだ、公方様以外に明君が出てほしいと言うなら、いわゆる謀反人むほんにんだということになって、組頭はすぐにお城の中で捕縛されてしまった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ないがしろにするような振舞いに出るなどとは、一体どうしたわけか、とんと合点がゆかない……。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
平次、御奉行朝倉石見守あさくらいわみのかみ様からきつい御達しだ、——近頃府内を騒がす盗賊、盗んだ品を返せば罪はないようなものではあるが、あまりと言えばお上の御威光をないがしろにする仕打だ。
我身の薄命をかこち、「何処かの人」が親をないがしろにしてさらにいうことを用いず、何時いつ身をめるという考も無いとて、苦情をならべ出すと、娘の親は失礼な、なにこの姿色きりょうなら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
大禄みながらなかなか勘定高うてな、この十年来、兎角お墨付をないがしろに致し、ここを通行致すみぎりも、身が他行たぎょう致しておる隙を狙うとか、乃至は夜ふけになぞこっそりと通りぬけて
ぬけのようにぼんやりしていた。ここまで来てその洞穴にも風が立ちさわいだ。あれほどないがしろにされたことは忘れてしまった。朝令暮改の政策に追いまわされての何百日かであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
長方形の板を載せているのが、竹片たけぎれを指して、立板に水を流すごとくにいった。「裸裎らてい淫佚いんしつで、徳を失い礼をないがしろにし、度を敗るは、禽獣きんじゅうの行いである。国には常刑じょうけいあり、ただこれを禁ずる」
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
天下が騒々敷そうぞうしい、ドウカ明君が出て始末を付けて貰うようにしたいとえば、れは公方様くぼうさまないがしろにしたものだ、すなわち公方様を無きものにして明君を欲すると所謂いわゆる謀反人むほんにんだと云う説になって
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
各員の間には言わず語らずの中に、完全な共同作業が行われるだろう、この同じ心持で人類が常に生きていたら。少くとも事なき時に、私達がこの心持をないがしろにすることがなかったならば。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
殿をないがしろにする事をわしが知らんと思うてるか、白痴たわけめ、左様に人前ひとまえを作り忠義立を申してもな、其の方は大恩人の渡邊織江を谷中瑞麟寺脇の細道において、手槍をもって突殺した事を存じてるぞ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は本能的生活の記述をないがしろにして、あまり多くをその讃美の為めに空費したろうか。私は仮りにそれを許してもらいたい。何故なら、私は本能的生活を智的生活の上位に置こうと思うからだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)