苦力クーリー)” の例文
両手に二挺の拳銃をもち、正面を睨んだその姿! それは意外にも金雀子街と、銅像の前とで邂逅した、穢い老人の苦力クーリーであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
またその看護婦の下には、顔や肩を赤く血に染めた大勢の苦力クーリーがぶらさがっている。そのまた下に、川上機関大尉や杉田二等水兵も見える。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
両人の帰奉することを慫慂しょうようしたので、ようやく学良も安心して、ひそかに苦力クーリーに変装して奉天に帰って来たのであった。
私が張作霖を殺した (新字新仮名) / 河本大作(著)
この太陽のじりじり焼きつける執念深さから、僅かな木影や土塀の陰を盗み出して、そこにもここにも裸形の苦力クーリーが死んだように、ぶっ倒れていた。
放浪の宿 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
島貫氏一行が泊まっていた虎屋旅館に無料で厄介になり、あくる朝、『広大号かんだいごう』という千トン足らずの、中国人の苦力クーリーを運ぶ船に乗込んだのである。
満洲や台湾の苦力クーリーや蕃人を動物を使うように酷使して、しこたま儲けてきた金で、資本家は、ダラ幹や、社会民主主義者どもにおこぼれをやるだろう。
その男は満洲を渡っているとき、人知れず苦力クーリーの背に封じ手を使ってみて、後からひそかにいて行くと、やはりぱったりとたおれたまま死んだという。
同じ清国人でも、それは、非常にするどい眼をもち、苦力クーリーみたいにきたなくて、弁髪べんぱつをグルグルと頭に巻きつけていた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かまのない煙筒のない長い汽車を、支那苦力クーリーが幾百人となく寄ってたかって、ちょうどありが大きな獲物を運んでいくように、えっさらおっさら押していく。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
六人の苦力クーリーが朝からかかって夕方になっても、まだ二メートルの凍土表面に達しない。この調子では夜中までかかるが、苦力たちは銭では夜業をしない。
永久凍土地帯 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
日本人にはずいぶんばかげた話だが、数日前、南山の裏山で銅子児トンズルのやり取りに余念のない苦力クーリー六名の傍らに、どこから来たか全身白毛の子狐が飛び出した。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そのとき、たちまちにペリティの店の向う側を黒と白の法被はっぴを着た四人の苦力クーリーが、黄いろい鏡板の安っぽい出来合い物の人力車をいて来るのに気がついた。
彼らは桜木町からくるまに乗った。乱暴な港の俥夫は胸をのめらせ、支那の苦力クーリーのように叫びながら駆け出した。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
マレイ人およびシナ人は、苦力クーリー、船員などを上海で集めたもので、一行の「護衛兵」たるべきものだった。
撥陵遠征隊 (新字新仮名) / 服部之総(著)
鼠色の男だなどとうたわれた義賊らしくもなく、から意気地のない、へなへなした苦力クーリーのような男でした。多分狼狽した結果、金で買ってきた偽犯人なのでしょうねえ。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
二人の苦力クーリーが組になつて、伐倒や玉切りをして、一日やつと立木四本位を切り倒す位だつたかなと、森林官としてチャンボウへ出張してゐた頃を富岡は思ひ出してゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
セメント会社の技師になったこともあるし、苦力クーリーみたいなことをしていたこともある。中国っていう所は不思議な所だからね。……ま。そういう話は、又のことにしよう。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
馬賊の来襲に備えるために雇われたればこそ番兵だが、その実は、日当三四十銭の苦力クーリーである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それについての思い出話を新聞紙上にも書いたが、それからそれへと繰り出して考えると、まだ云い残したことが随分ずいぶんある。そのなかで苦力クーリーのことを少しばかり書いてみる。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
途中、笛と跫音あしおとと泣き女のいとも哀しい支那の葬式にあう。失業者の苦力クーリーが棺をかつぐあとから家族らしい一行がうなだれて、長い列が休みやすみ泥棒市場のかどを曲っていった。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
シナ人の苦力クーリーが四人、うちの中庭へはいって来たんです。薪を運んで来たんだったかどうだったか、覚えちゃいませんがね。とにかく退屈だったんで、ちょいとこの拳骨を使って見たんでさ。
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
黄包車ワンポウツォの車夫が、下船した客をつかまえようと、大声でわめいている。喧騒はその大声のせいだけではなく、荷運搬の小車ショーツォ大車ダーツォ苦力クーリーたちも、白い息を吐いて、何か口々に喚き立てている。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
見れば、酔漢は、苦力クーリーと見えて、纒った支那服のあちこちに泥が穢ならしく着いている。五十を過ごした老人で、酒に酔った顔は真っ赤である。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
苦力クーリーどもの汗みどろな癇癪でのべつにひっぱたかれる馬どもが、死にもの狂いの蹄で土煙を蹴立て、蹴あげて、その土煙から脱れようとして藻掻き廻っていた。
シベリヤに近く (新字新仮名) / 里村欣三(著)
それから時どきに黒と白の法被はっぴを着た苦力クーリーの人力車に乗って、静かに通ってゆく白い顔の幻影、ウェッシントン夫人の手袋をはめた手、それから極めてまれではあったが
その苦力クーリーは一日六円の収入になるそうであるが、乗っている街の日本人の顔色を見ると、その大半は一日六円の収入はないのではなかろうかとつまらぬことが気になった。
満洲通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あの大森林のなかで、一生涯を苦力クーリーで暮してゐる方が、いまの生活よりはるかに幸福に思へた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
私は谷口組の下請けをやっている菊本氏の家に厄介になりながら、無給で苦力クーリーの監督などを手伝わされていたが、ある日、谷口組の親分が『看板の下書きをしろ』というのである。
中二は母をたすけて内へ連れ込もうとする時、下のかたより工場の事務員浦辺、三十五六歳、洋服を着て先に立ち、若き事務員村上は花環を持ち、あとより支那の苦力クーリー二人が担架をかき
青蛙神 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
暑くるしい夜をそこに涼んでいたらしい一人の苦力クーリーがびっくりしてとびおきた。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを囲んで三人の男が食事をしている。皿小鉢さらこばちからはし茶碗ちゃわんに至るまできたない事はなはだしい。卓に着いている男に至ってはなおさら汚なかった。まるで大連の埠頭ふとうで見る苦力クーリーと同様である。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きのうとおととい奉祝展というのを見ましたが、たとえば版画なんかでも柚木久太が苦力クーリーの生活的なのを出しているほか、感情が遊戯的で、日本版画の感情的伝統について印象づけられました。
「それはどういう意味でしょうね? そうしてどうしてあの苦力クーリーは、あなたの本名を知っているのでしょうね?」
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
気がつくと、空地の向うに五六人の苦力クーリーがエンコして何か喰っていた。俺は立ちあがって、そこに行った。辮髪をトグロのように巻た不潔な野郎が、大きなマントウを頬張っているのだ。
苦力頭の表情 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
私たちは七人が一組で、二人の苦力クーリーを雇っていましたが、シナの苦力は日本の料理法を知らないので、七人の中から一人の炊事当番をこしらえて、毎日交代で食事の監督をしていました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)