)” の例文
この三本の松の下に、この灯籠をにらめて、この草のいで、そうして御倉さんの長唄を遠くから聞くのが、当時の日課であった。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それと同時に甘ったるいような香水のかおりを彼はいだ。彼を介抱してくれているのは西洋人の夫婦らしかった。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
外科室に這入はいって見れば石淋せきりんを取出す手術で、執刀の医師は合羽かっぱを着て、病人をばまないたのような台の上に寝かして、コロヽホルムをがせてこれを殺して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ともすれば石炭酸のの満ちたる室をぬけでて秋晴しゅうせいの庭におりんとしては軍医の小言をくうまでになりつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
山路になりてよりは、二頭の馬あえぎ喘ぎ引くに、軌幅きふく極めて狭き車のること甚しく、雨さえ降りて例の帳閉じたればいきもりて汗の車に満ち、頭痛み堪えがたし。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
三二 千晩せんばだけは山中にぬまあり。この谷は物すごくなまぐさのするところにて、この山に入り帰りたる者はまことにすくなし。昔何の隼人はやとという猟師あり。その子孫今もあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しらもくろもありァしねえ。それがために、いそがしいときにゃ、ッぴてなべをかけッはなしにしとくから、こっちこそいいつらかわなんだ。——このかべンところはなてていでねえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それからとまたあたりを見廻すと戸棚の戸の右の下隅が半月形はんげつけいに喰い破られて、彼等の出入しゅつにゅうに便なるかの疑がある。鼻を付けていで見ると少々鼠くさい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
苦痛と、いうべからざるいたましきのために、武男が目は閉じぬ。人のうめく声。物の燃ゆる音。ついで「火災! 火災! ポンプ用意ッ!」と叫ぶ声。同時にせ来る足音。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)