あご)” の例文
梵鐘ぼんしょうの如き声で末座の一人にあごを向けると、はッと答えていさぎよくそれへ出た一人の修験の門輩、柿色の袖をまくして一礼をなし
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すこし落着きかけた婆さんの歯抜けあごが又もガタガタ言い出した。それに連れて和尚の顔色がバッタリと暗くなった。
ほおの末としっくり落ち合うあごが——腭をててなよやかに退いて行く咽喉のどが——しだいと現実世界にり出して来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぼんやり池一つへだてて通りを眺めているものもいたし、なかにはあごつきを膝の上でやりながらぼんやり失神したように或一点をながめくらしているものも居た。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
白は独語ひとりごとを云い終ると、芝生しばふあごをさしのべたなり、いつかぐっすり寝入ってしまいました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二人の子供は奴頭のことばが耳に入らぬらしく、ただ目をみはって大夫を見ている。今年六十歳になる大夫の、朱を塗ったような顔は、額が広くあごが張って、髪もひげも銀色に光っている。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私は古面こめん展覧会で鎌倉期の、だれだかの作で、笑った女の面が、眼も鼻もなく、顔の真中につぼまって、お出額でこと、頬っぺたと、大きなあごに埋まってしまって、鼻の穴だけが竪に上をむいた
一尾を釣り得て彼は少なからず安堵あんどしたらしく、竿をば石の間に突き立てゝおいて、岩の上に蹲踞しやがんだ。兩手であごを支へて茫然と光る瀬の水を凝視して居る。自分との間は十間と距つてゐない。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
媽々かゝあ小兒こどもあごらねばなりませぬで、うへとも出來できかねまする。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あごの左の方にちょっと眼に立つほどの火傷のあとがあるそうだが……
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わが舌をあごにつかしめたまえ、(詩篇第百三十七篇)
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
あごけている処で雲からりるなんて。10070
更に其穗はあごの端貫き外に拔け出でぬ。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
余り残刻ざんこくなのに驚いて、また最初から出直そうとして、少し痛くなり掛けたあごを持ち上げると、障子しょうじが、すうといて、御手紙ですと下女が封書を置いて行く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主のふちといえば誰も入ったものはあるまい。昔から人の入らない処なら、中にまたどんな珍らしい不思議なものがあろうも知れない。たとえにもりゅうあごには神様のような綺麗な珠があるというよ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
永遠に渇している目は動くあごに注がれている。
牛鍋 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ついでに地獄のあごも持って来い。
と新九郎をあごで指した。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「夢窓国師はそんな悪戯いたずらはしなかった」と甲野さんは、あごの先に、両手でつえかしらを丁寧に抑えている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
首の三つあるいぬあごより