胡麻塩頭ごましおあたま)” の例文
旧字:胡麻鹽頭
新吉は二階をおりてから下のへやへ往った。そこでは五十ぐらいになる胡麻塩頭ごましおあたま主翁ていしゅが汚いちゃぶ台に向って酒を飲んでいた。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
するとすぐにお婆さんが、目球を光らかして、しょうつかの鬼婆のようにぼうぼうと髪の乱れた胡麻塩頭ごましおあたまを振りたてて
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
納戸へ通口かよいぐちらしい、浅間あさまな柱に、肌襦袢はだじゅばんばかりを着た、胡麻塩頭ごましおあたまの亭主が、売溜うりだめの銭箱のふたおさえざまに、仰向けにもたれて、あんぐりと口を開けた。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胡麻塩頭ごましおあたまを五分刈にして、金縁の目金を掛けている理科の教授石栗いしぐり博士が重くろしい語調でくちばしれた。
里芋の芽と不動の目 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「君も賛成者のうちに名が見えたじゃないか」と胡麻塩頭ごましおあたま最前さいぜん中野君を中途で強奪ごうだつしたおやじが云う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
胡麻塩頭ごましおあたまで、目がくぼんで、鼻のたかい、節々のあらわれたような大きな手を持った隠居が、私達の前を挨拶あいさつして通った。腰にはつのの根つけの付いた、大きな煙草入をぶらさげていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
胡麻塩頭ごましおあたまに、底意地わるく眼がくぼんで、背が低くて猫背で風采ふうさいのわるい男だった。
今日も雨かと思うたりゃ、さあお天道様てんとさまが出なさったぞ、みんなうと呼ばって、胡麻塩頭ごましおあたまに向鉢巻、手垢に光るくるりぼう押取おっとって禾場うちばに出る。それっと子供が飛び出す。兄が出る。弟が出る。よめが出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
不精で剃刀かみそりを当てないから、むじゃむじゃとして黒い。胡麻塩頭ごましおあたまで、眉の迫った渋色の真正面まっしょうめんを出したのは、苦虫と渾名あだな古物こぶつ、但し人のおとこである。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小夜子は氷嚢を盆へせた。両手を畳の上へ突いて、盆の上へいかぶせるように首を出す。氷嚢へぽたりぽたりと涙が垂れる。孤堂先生は枕に着けた胡麻塩頭ごましおあたま
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新魚町しんうおのまちの大野ゆたかの家に二人の客が落ち合った。一人は裁判所長の戸川という胡麻塩頭ごましおあたまの男である。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
胡麻塩頭ごましおあたまの中へ指を突っ込んで、むやみに頭垢ふけを掻き落す癖があるので、むかいの間に火鉢ひばちでも置くと、時々火の中から妙なにおいを立てさせて、ひどく相手を弱らせる事があった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
久右衛門は胡麻塩頭ごましおあたまをしているのに、この爺いさんは髪が真白である。それでも腰などは少しも曲がっていない。結構なこしらえの両刀をした姿がなかなか立派である。どう見ても田舎者らしくはない。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)